弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月31日

トランクの中の日本

日本史

著者   ジョー・オダネル 、 出版   小学館

 日本の敗戦直後、進駐してきたアメリカ軍の若き従軍カメラマン(23歳・軍曹)が日本各地を撮影してまわりました。そのとき、彼は自分個人のカメラでも撮影していて、それをトランクに入れてアメリカに持ち帰ったのでした。7ヵ月間にとった300枚の写真のネガです。そのトランクを45年後に開けて公表したのでした。
 アメリカ軍が日本に上陸する直前の写真から始まります。佐世保の高いビルの屋上にのぼり、廃墟となった佐世保市内にカメラを向けている状況写真もあります。まさに、今回の東日本大震災と同じ、まるで何もありません。ところどころにコンクリートビルの残骸があるだけです。
 武装解除された日本軍の将兵が馬車に荷物を積み、歩いて市内を行進していきます。
子どもたちが、チョコレート欲しさにアメリカ兵に群がっています。
 死体を焼く悪臭のため、鼻を着物のそでで押さえながら若い娘たちが歩いて通り過ぎていきます。
アメリカ兵の宿舎となった旅館で風呂に入り、食事をし、仲居さんたちと談笑している状況もあります。
 福岡の町並みは、さすがに木造ばかり、パン屋の前には長い行列ができています。
 驚くべきことに小さな小学校で運動会があっています。障害物競走の様子がうつっています。子どもたちは皆、元気いっぱい。手伝いをして働いている子どもたちもいます。
 広島にも空から行って写真をとりました。佐世保以上に何もない光景が遠くまで広がり続いています。
 長崎の爆心地にも立ちました。瓦礫の山です。そして瓦礫の中に人骨が散らばっています。被曝者は、顔が真っ黒、着ている衣服もボロボロ。背中にひどい火傷を負った少年の写真もあります。
 同時に、小学校では既に授業が始まっています。ところが、机の上には、まだ教科書がありません。
 死んだ弟を背負って焼場に来た少年の健気な様子の写真には心を打たれます。
 カメラ片手に広島・長崎をさまよって放射能を浴びたことで、後年、若者は体調をくずしてしまいました。放射能は、随分たってから影響を及ぼすものなのですね。
1995年夏にスミソニアン博物館で展示が企画されたものの、アメリカ国内の在郷軍人などの反対で中止に追い込まれてしまいました。この大判の写真集はそこで展示されるはずの写真からなっています。少し高価(2500円)な写真集ですが、ぜひ手にとってじっくり眺めてください。つくづく戦争は嫌だという気になります。
(2008年8月刊。2500円+税)

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