弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月27日

僕は、そして僕たちはどう生きるか

社会

著者   梨木 香歩 、 出版   理論社

 不思議な小説です。
 子ども向けの本のようだと思いながら読みすすめていくと、突然ゴチック体で場違いのような状況が描かれています。その場面だけはどうしても子ども向けではありません。そして、それに関わる人物はとうとう最後まで登場してこないのです。
 自然と人間の関わりがいろんな角度から焦点をあてて考察されています。主人公の一人は長らく登校拒否で引きこもりでした。
 兵役を忌避して山中にこもっていたという老人も登場します。その代わり、山の中のことには滅法詳しいのです。
 私も自然に近い環境の中で生活しています。ホタルは5分も歩いていけば見れます。ところが自然に近いということは、大変な面もあります。昨日も、明け方になって頭上のところで、小鳥が飛び立つ音のあとガタガタ音がしました。少し前に見た光景から推測するに、ヘビがスズメの巣を襲ったのではないかと思われます。2階までヘビがどうやって柱をのぼってくるのか不思議でなりません。しかし、その不思議さは現実のものなのです。そして、虫によく刺されます。ヤモリも部屋の隅をチョロチョロしますし、クモも大小さまざま畳の上を闊歩するのは日常茶飯事です。ですから、虫さされ、かゆみ止めの薬はすぐ手の届くところに置いてあります。ヘビもマムシだったら、咬まれたらすぐに病院に駆け込むしかありません。身近に家人がいなくて、ケータイもなかったら、どうしましょう。手遅れにはなりたくありませんが・・・。
 ずっと一つのことを考えてたんだ。僕は、そして僕たちは、どう生きるかについて。
 主人公のセリフです。なかなか口に出しては言えない言葉です。
僕も集団から、群れから離れて考える必要があった。しみじみそう思って決行したのは、しばらく経ってからだった。それが、学校に行かなくなった理由なんて、誰も分からなかったと思う。誰もまた、分かりたくなかっただろうし・・・。
 人間の心の微妙な動きをよく描いていると思いました。
(2011年6月刊。1600円+税)

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