弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2011年8月12日
実録 ・ 龍馬討殺
日本史(江戸)
著者 長谷川 創一 、 出版 静岡新聞社
坂本龍馬を京都の宿舎に押し入って斬った犯人は京都見廻り組の今井信郎(のぶお)だった。その今井信郎は明治末期まで生きのび、なんと静岡で村長になったりしていたのです。
慶応3年(1867年)11月15日、京都の蛸薬師通りに面した味噌商、近江屋の二階にひそんでいた坂本龍馬と中岡慎太郎は突然押し入ってきた武士たちに斬られた。
龍馬が殺された3日後の11月18日夜、新撰組の近藤勇、土方歳三らの主流派が御陵衛士と称して高台寺に分離対立した元新撰組参謀の伊東甲子太郎一派を謀計にかけて暗殺する油小路事件が起きた。
土佐藩に君臨した山内容堂は郷士階級に結成された土佐勤王党自体を認めておらず、志士の勤王倒幕運動を許すことはなかった。佐幕派の容堂の主導により、幕末期の土壇場まで徳川家を組み込んだ公式合体策にこだわった土佐藩は朝廷内の倒幕派が優位に立つにつれ劣勢に追い込まれていく。政争活動に立ち遅れた土佐藩は失地を回復するため、藩重役の後藤象二郎は、薩摩・長州藩に深いつながりをもつ郷士階級の脱藩浪士である龍馬や中岡の利用を思い立ち、慶応3年に至って海援隊や陸援隊の設立を助け、支援する。したがって、藩官僚と龍馬や慎太郎たちとの関わりが深まったのは、彼らの死のわずか半年たらず前のことだった。
龍馬襲撃班は、龍馬に拳銃を発射させないため、隙をついて一気に討ちとる覚悟を固めていた。見廻組の捜索網は、事件の前々日から龍馬の所在を突き止めていた。というのも、謀史(スパイ)が、こもをかぶって乞食となって龍馬の下宿する醤油屋の庇下に寝伏していた。
名祖を出して取次させ、2回に上がっていくのに尾いていく。そして、襖をあけて、「やや、坂本さん、しばらく」と声をかける。すると、入り口にすわっていた方の男が「どなたでしたねえ」と答えた。これで龍馬だと分かったので、それっと言って手早く刀を抜いて斬り付けた。横に左の腹を斬って、それから踏み込んで右からまた腹を斬った。
今井信郎は、天井の低い室内の戦いに適した直心陰流必殺の一撃を打ち込んだ。
中岡慎太郎は、名札に気をとられて襲撃者に気付くのが遅れ、いきなり攻撃を受けたため、竜馬への最初の信郎の一撃は目にしていない。
龍馬の死後、見廻組の武士たちは襲撃者を新撰組と疑う市中の噂に安堵していた。龍馬討殺命令は、徳川の最高機密事項になっていた可能性がある。実行責任者が榎本対馬守であったとしても、この事件は老中板倉勝静、若年寄永井尚志ら重職者の了解のもとに実施されたと思われる。
京都の治安が悪化したため、幕府は京都守護職を新設して対応に乗り出した。会津藩主・松平容保を守護職に就任させ、会津藩兵1000人が常駐した。しかし、手がまわらず、文久3年に会津藩預かりの新撰組、続いて翌年に見廻組をもうけて治安維持活動にあたらせた。
京都見廻組は、幕府によって元治元年に設立された幕府公認の組織であり、譜代の旗本、御家人の子弟から隊士を選抜するとし、1隊200人、2隊合計400人の編成だった。これに対して新撰組は浪士組織であって、まったく異なる。
京都見廻組を指揮した実力者は佐々木只三郎である。坂本龍馬暗殺を指揮した只三郎は勇猛果敢かつ緻密な計画性をもつ有能な幕臣だった。
龍馬暗殺の実行犯が明治になってキリスト教を信じたり、村長になっていたなんて・・・・。驚きました。子孫による掘り起こしの書です。
(2011年2月刊。1000円+税)
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