弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月10日

再発

人間

著者    田中 秀一  、 出版   東京書籍

 医師ではなく、ジャーナリスト(読売新聞の医療情報部長という肩書きがついています)による本なので、専門的ではありますが、がん治療の最新の状況がよく整理されていて、分かりやすい本です。
1年間に新しくがんと診断される日本人は68万人(2005年)。がんで死亡する人は34万人(2009年)。生涯で日本人の2人に1人ががんになり、3人に一人ががんで亡くなっている。かつてに比べると、がんの治療率は高まっている。それでも、患者の半数は生還できない。その理由は、がんが「再発」と「転移」を起こすことにある。
 再発したがんは、最初の治療の後に新しくできたがんではなく、最初の治療の時に既に存在しているがんである。再発や転移が見つかったときに手術で完治させるのは難しく、原則として手術はおこなわれない。
放射線治療も、がんの種類によっては、手術と同等の効果がある。しかし、放射能治療も、手術と同じく局所的な治療法であり、がんが全身に広がっていると完治させることは出来ない。現代医療といえども、きわめて微少ながんを検知するすべをまだ持ち合わせていない。
 遠隔転移の治療が難しいのは、転移が見つかった時点ですでに、がんが血流に乗って見つかった場所以外の部位や全身にも広がっている可能性が高いからだ。
 がんを抗がん剤で完治させることは容易ではない。
 がん細胞は、ゆっくりと分裂をくり返して大きくなっていく。そして、がん細胞ができたからといって、すぐに転移する能力を持つわけではない。がん細胞にとっても、転移は命がけである。このハードルをこえて転移したがん細胞は、生存能力の高い、悪性度の高い細胞といえる。がんは、正常細胞がもっている仕組みを使って転移、増殖しているために、薬でたたこうとすれば、正常細胞や正常組織を維持する機構も傷つけることになり、治療が困難なのである。
 がんは、きわめて複雑な病気なのである。がんは人間の身体の一部が変化してできたものであり、人体がもともともっているメカニズムを組み合わせながら発生、増殖している。これは、すべて正常細胞にも備わっている仕組みだから、これらの仕組みのどの部分を抗がん剤で攻撃しても、正常細胞に影響が出てくる。ここに、がん治療の難しさがある。
 がんになっても、心身ともに健康な生活を送ることができることが大切である。バランスのとれた食事と適度の運動が理にかなっている。
 がんは、抗がん剤で一時的に縮小しても、しばらくすると再び増大することが多く、必ずしも治癒や延命にはつながらない。分子標的薬やラジオ波治療は有効なことがある。
 抗がん剤に過剰な期待をもつべきではない。
 腫瘍マーカーの数値の変化に一喜一憂すべきではない。抗がん剤によるメリットがない場合には、薬の副作用だけを受けることになるので、治療は中止すべきだ。副作用が表れる確率は100%である。
 緩和ケアには、患者を元気にし、延命をもたらす効果力がある。
抗がん剤にばかり頼るなという指摘は、なるほどと思いました。
(2011年2月刊。1000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー