弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月 9日

刑務所図書館の人びと

アメリカ

著者    アヴィ・スタインバーグ  、 出版   柏書房

 アメリカは世界史上最大の犯罪者収容施設を有している。アメリカの人口は世界人口の5%だが、受刑者数は全世界の刑務所人口の25%を占めている。アメリカの都市のひとつ分の人口が服役中で、投票権を持っていない。
そんなアメリカの刑務所に図書室があり、そこにハーバード大学を出たユダヤ人青年が働くようになって体験した出来事が書きつづられています。面白く哀しく、そして日本はアメリカみたいになってはいけない、つくづくそう思わせる本です。
 刑務所の図書室は混みあっている。そこは禁酒法時代のもぐり酒場みたいな雰囲気になり、読書のための静かな空間とは言いがたい。しんと静まり返っていることはほとんどない。刑務所の図書室は、交差点みたいなもので、大勢の受刑者が差し迫った問題に対処するためにやってくる。
 正統派ユダヤ教徒のコミュニティでは、法律家か実業家か医者になる見込みがなければ、つまり大学を卒業したあと大学院に進むか銀行に職を得る見込みがなければ、異教神(バアル)を崇拝するよりも重大な罪を犯したことになる。
 刑務所の図書室で働く職員のなかには、図書室は受刑者たちを目覚めさせる場であって、現実を忘れさせる場ではないと考える人たちもいる。図書室とは、受刑者が人生を変えたり、教養を深めたり、何か生産的なことができるようになるための場所なのだ。たとえば、マルコムXは、刑務所の図書館で大変貌を遂げた。
 図書係は、受刑者の作業のなかで一番楽だ。ここは「エリートの職場」で、職員に推薦された受刑者がよくやっていた。
 刑務所の規則により、受刑者が所内に所持していい本は6冊までとされている。
 受刑者の多くにとって、子ども時代の思い出はつらいものか、まったく存在しないものかのどちらかだ。なーるほど、そうなんですね・・・。重い指摘です。
刑務官に離婚経験者が多いのは、笑えない現実だ。
 自殺は刑務所では重要な問題である。
 自由な世界のラジオ局は、受刑者が大半を占めるリスナーに娯楽を提供している。
 密告は深刻な問題だ。密告のしかたによって受刑者にもなり、警察官にもなる。第三の選択肢はない。中立という立場はないのだ。
 刑務所では、時間は独特の意味をもつ。「時間はいくらでもある」というのが、受刑者たちのよく口にする言葉だ。これが刑務所で日常的に使われるときの意味は、「刑務所にいるんだから、忙しいわけがない」ということだが、同時に皮肉な意味もこめられている。自分にあるのは時間だけで、他には何もないということだ。受刑者には常に膨大な時間があるが、時間に付随する意味とは縁がない。大多数の受刑者は、「どちらを見ても水ばかりなのに一滴も飲めはしない」と海上でこぼす潜水夫みたいなものだ。時間は限りなくあるが、それは心に栄養を与えてくれる類の時間ではない。季節も休日も、周期もない。少なくとも、他者と共有できるものは何もない。
刑務所人口をただ増やす方向での取り組みは意味がありません。やはり、その人口を減らしていくためにはどうしたらよいかという視点で社会全体が考えるべきではないでしょうか。
 刑務所内の人間模様がリアルに描けている秀作だと思いました。530頁もある大作です。
(2011年5月刊。2500円+税)

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