弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年7月27日

地方議会再生

社会

著者    加茂利男・白藤博行ほか  、 出版   自治体研究者

 身近な存在であるはずの地方自治を黒い雲が覆っています。河村名古屋市長、橋下大阪府知事そして阿久根の竹原前市長が震源地です。この三人は、議会を徹底的に批判し、議員定数の削減、議員報酬の半減などを主張し、これに応じない議会と真っ向から対抗し、住民を扇動する。
 いま、大阪府下の市町村長や議員のなかには橋下知事と対立するのは得策ではないという雰囲気がある。橋下流の政治手法が一種の威嚇効果を発揮している。
 議会は、ほんらい社会のなかにある違った意見や利益を代表する議員や政党が出てきて、意見を調整して合意をつくる会議体であり、社会の多様性を議員の多様性が反映している。言いかえると、議会には、もともと異なる意見がぶつかって、調整や妥協を経て決定に至るという、まだるっこい性質がある。議会民主主義を否定してしまうのは、危険だ。
 議会の意見と知事や市町村長の意見が異なることは当然十分に考えられるし、その対立の出現は、むしろ望ましい事態である。異なる意見と対立は、討論とお互いの譲歩によって解消されていく。
 議会を軽視し、無視するというのは、歴史的にみると独裁者のやってきたことである。
 阿久根の竹原前市長の政治手法には4つの特徴があった。その1つは、敵を明確に設定し、敵を攻撃することによって自らの支持を獲得・拡大する。レッテル張りの政治と表裏一体である。その2は、ジェラシーの政治である。公務員給与が高すぎるという主張が人々のジェラシーを刺激する。その3は、巧みなメディア対応である。取材拒否をしつつ、マスコミを操作した。その4は、散発的ではあるが、わかりやすく具体的な施策を行うことによって支持を獲得する。
 マスコミは、議会論戦を丁寧にフォローするのではなく、絵になる部分、議会の欠席や議場内の混乱などをフォローアップする。そのため、「顔の見える」首長とそれを妨害する「顔の見えない」議会という構図が成立しやすい。
 橋下大阪知事のマスコミ露出度は高い。前任の大田氏が145件、その前任の横山ノック氏が204件であるのに対して701件とダントツの回数である。
 橋下流の交渉術は、合法的な脅し、利益を与える、ひたすらお願いするという三つの法則からなる。橋下知事にとって、言葉は議論を通じて合意を得る「熟議」のための道具ではなく、手練主管、時にはウソも肯定される交渉術の要素なのであって、政治も交渉を通じて自らの構想を実現するための手段なのである。
 先日の条例制定もひどいものでした。条例によって教員の自主性をまったく踏みにじっても平然と得意がる橋下知事のえげつなさには呆れ、かつ怒りを覚えます。同じ弁護士であることに恥ずかしさすら感じてしまいます。大阪府民の皆さん、なんとかしてくださいな。
(2011年4月刊。1800円+税)

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