弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2011年6月13日
地球200周。ふしぎ植物探検記
生き物
著者 山口 進 、 出版 PHPサイエンスワールド新書
私と同世代の写真家です。世界の珍しい生物を求めて世界を駆けめぐりました。それは地球200周分に相当するといいますから、圧倒されます。ともかく、この地球上には奇想天外の生き物がこんなにもいるのか、信じられません。まさしく「想定外」の世界です。
たとえば、土のなかで花を咲かせるランがいるというのです。ええーっ、なんで、暗い地中で花を咲かせるの・・・?まるで想像できません。植物が自分の身体にコブをつくり、そこにアリを住まわせます。そして、ご丁寧にも、アリの巣まで植物のほうでつくってあげるというのです。ええっ、まさか・・・。
口絵のカラー写真とともに、たくさんの写真が盛りだくさんの楽しい本です。といっても、取材のほうは、並大抵の苦労ではありません。
特殊な花を観察するには、花の前で定住観察する以外に方法はない。新根が見つかったら、花である可能性が出てきたときには、その近くに簡単な小屋を建て継続観察する。小屋は住民の協力で作る。材料は周囲にある竹を使う。観察が終わったら、小屋は分解・放棄されるが、高温多雨のスマトラでは2ヵ月もたたないうちに打ち果て、半年もたつと跡形もなくなる。
著者は、こんな小屋を十数年で30件ほども建てたといいます。うひゃあ、すごいですよ。山のなかに一人で寝泊まりするのですから、心寂しい限りでしょうね。
時間と体力、そして何よりも現地の人との付きあいがうまくできないと花探しは不可能だ。その基本は、相手を信じることに尽きる。それも本気で信じないと相手に気持ちが通じないし、受け入れてもらえない。
スマトラの夜。夕刻7時にショクダイオオコンニャクは開花しきった。突然、肉穂から、もうもうたる湯気が出はじめた。その瞬間、ただならぬ匂いが漂いはじめた。湯気はとどまることなく、煙のように肉穂から立ちのぼっている。ときには流れるように、ときには渦巻きながら、湯気は激しく立ちのぼるこの湯気こそ、匂いのもとのなのだ。肉穂を触ると熱を感じる。温度計で計ると39度もある。発熱することによって白い成分を蒸発させるのだ。夜8時、花の周囲は匂いで満たされた。1キロも離れた家でも匂いを感じたという。彼らは、「ネズミの死体が腐るときの匂い」という。著者は、腐った魚と砂糖が焦げる匂いと書いています。
匂いを出す目的はただ一つ。送粉者を引き寄せること。大型のシデムシが白いに魅かれて飛んできた。
このショクダイオオコンニャクが7年に一度しか花を咲かせない理由は、貧栄養の土壌を好むからだ。貧栄養の環境下で、ゆっくりと生育することが巨大化につながっていく。
同じような花として、ラフレシアがある。著者は、その開花に3度も立会したそうです。いずれも夕方から夜8時という時間に始まる。ラフレシアが開花しはじめると、すぐにたくさんのハエが集まってくる。花の匂いは田舎の古い便所のようなもの。花を探して森の中を歩いていると、その匂いで花の存在を知ることができるほど鼻につく独特の匂いだ。
ハエが花のなかに入り、やがて出てくるが、そのとき背中にべったりと花粉がついている。そして、ハエは花粉を担いだまま花から飛び立つ。
オーストラリアには、地下に花を咲かせるランがいる。ピンクの色がついた直径2センチもある大きな花だ。冬は雨が多い。保水性の低い砂地にはえる地下のランにとって、水分の心配から解放される。それに冬は他の植物との競争が少ない。
まあ、それにしても不思議な花ですね。そして、よくも人間が見つけたものです。それを調べている学者がいるというのも、すごい話です。
たまにこんな本を読み、写真を眺めていると、地球上生き物とはなんてへんてこりんなんだろうと思いつつ、それを探しまわれる人間いて、それを面白がる私のような人間がいるというのも、まさにへんてこりんな存在だと思い至るのです。そして、それこそ、私が生きている意味なのかもしれないと思ってしまうのでした。
(2011年2月刊。880円+税)
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