弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年6月 9日

餓死現場で生きる

アジア

著者    石井  光太  、 出版   ちくま新書

 15年間にわたって世界各地の貧困国に赴いてルポルタージュを書いてきた著者が、世界の子どもたちの現状を改めてレポートした本です。著者は、まだ30歳代も前半なのですが、とても冷静な筆致で、世界のすさまじい現実を淡々と描いています。
 著者の本は、これまでも『絶対貧困』(光文社)など、いくつも紹介してきましたが、この新書はこれまでの本の総まとめのような内容になっています。
日本の低体重児の割合は周辺国に比べて高い。北朝鮮7%、モンゴル6%、韓国4%に対して、日本は8%。この30年間で、日本の低体重児の出生率は2倍となった。その原因は、日本女性がやせすぎだということ。
途上国における子どもの死因は多い順に、肺炎、下痢、マラリアとなっている。いずれも感染症だ。
幼い子どもを犠牲にしても父親がまっ先に栄養をとるのは、自分本位とか差別というより、そうしなければ一家が成り立たないという現実があるため。
ストリートチルドレンは、満足に食事をとれない。すると、髪や肌の色がどんどん明るくなってくる。だから、人は白っ子と呼ぶ。しかし、これは栄養不足による病状をあざ笑う差別用語なのだ。
親が自分の娘を初めから承知して売春を強いるのは、親自身も売春しているときか、親が違法な薬物中毒になっていて善悪が認識できないときが大半である。
貧しい家庭では、息子より娘に教育を受けさせる。海外へ出稼ぎに行くには、それなりの英語力をはじめとした教養が必要になってくる。男性は肉体労働なので、それほどの教養は必要としない。
初等教育を受けられなかった子どもは社会に適応できなくなる。公用語が分からず、意思疎通ができない。社会性を身につけていれば、困窮していてもコミュニティー内での助け合い、労働力が可能となって生きてゆける。貧困層の人々は、必要な基本的教養が不足しているか、苦しい状況を少しでも良くなるようと迷信に頼って生活する。
親が子どもの身を守るため、幼いうちに結婚させるところがある。日常に大きな危険が潜んでいる状況では、できるだけ早目に結婚させたほうがいいのだ。
日本のエイズ感染者は2万人以下。日本では感染は予防できる。ところが、貧困国で、困窮した生活を送っている人々は免疫力が弱まっている。アフリカでは、淋病やクラミジアは尿道に炎症を起こすため、そこがエイズウイルスの侵入経路になっていて、HIV感染率が上がる。アフリカの売春婦は20代半ばまでに、そのうちの何%かは発病して命を落としているのが当たり前となっている。
淡々と、恐ろしい現実が次々に紹介されています。頁をめくる手が鈍ってしまう、とても重たい手軽な新書版です。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2011年4月刊。860円+税)

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