弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年6月 3日

不破哲三・時代の証言

社会

著者  不破 哲三    、中央公論新社 出版   

 日本共産党のトップが、あのヨミウリで自分の半生を語った新聞連載が本になりました。
 「意外な新聞社からの意外な話」だと著者も述べていますが、いかにも意外な組み合わせです。しかし、準備に半年かけ、1回の取材に3時間をかけて10回ものインタビューに応じたというのですから、共産党や国会の裏話をふくめて密度の濃い内容になっていて、とても読みごたえがあります。
30回の連載をもとに、さらに記述を膨らましてあるようですので、新聞を読んだ人にも、恐らく重複感は与えないと思います。日本の現代政治史を考える資料の一つとして大いに役立つ内容だと思いながら、私は一気に読了しました。
著者は、幼いころ、虚弱体質、腺病質だったとのこと。泣き虫で、悲しいにつけ、うれしいにつけ、床の間に行ってこっそり泣くので、「床の間」というあだ名がついた。うへーっ、そ、そうなんですか・・・・。とても感情が豊かな子どもだったのでしょうね。私は小学校まで笑い上戸だといって、家族みんなから笑われていました。
そして、著者は本が好きで、小学校3年生のときから小説を書いていたというのです。どひゃあ、恐れ入りましたね。いかにも利発そうなメガネをかけた当時の顔写真が紹介されています。
 戦争中は、ひたすら盲目的な軍団少年だったとのこと。まあ、これは仕方のないことでしょうね。それでも、やはり早熟なんですよね。なんと、16歳、一高生のときに日本共産党に入党したというのです。そして、婚約したのも早く、19歳のときでした。いやはや、早い。
会費制の結婚式を駒場の同窓会館で挙げたとのこと。私も大学一年生のとき、そこで開かれたダンスパーティーに恐る恐る覗きに行って、尻込みして帰ってきました。踊れないので、輪の中に入る勇気がなかったのです。本当は女子大生の手を握って踊りたかったのですけど・・・・。
 著者が共産党の幹部になってから、ソ連や中国共産党からの干渉と戦った話は面白いし、さすがだと感嘆します。大国の党の言いなりにならなかったのですね。アメリカ政府の言いなりになっている自民党や民主党の幹部たちのだらしなさに改めて怒りを覚えました。
 著者は国会論戦でも花形選手として活躍したわけですが、対する首相たちも真剣に耳を傾け対応したようです。
質問していて一番面白かったのは田中角栄だ。官僚を通さず、自分で仕切る実力を感じさせた。このように、意外にも角栄には高い評価が与えられています。大平正芳も真剣に対応したようです。
 この本で、私にとって興味深かったのは、宮本顕治へ引退勧告するのがいかに大変だったか、それが語られていることです。私の敬愛する先輩弁護士のなかでも、引け際を誤って、老醜をさらけ出してしまった人が何人もいます。本人はまだ十分やれると思っていても、周囲はそう見えていない、ということはよくあるものです。老害はどこの世界でも深刻なんだよなと、つい思ってしまったことでした。
 かつて共産党のプリンスと呼ばれたことのある著者も今や80歳。70歳のときにアルプス登山は卒業しました。そして、今、インターネットを通じて社会科学の古典を2万5千人の人に教えているそうです。すごいことですよね。
 先日、毎日新聞の解説員が絶賛していましたが、原発問題についての講話はきわめて明快で、本当に出色でした。目からウロコが落ちるとはこのことかと久しぶりに実感したことでした。小さな小冊子になっていますので、ぜひ手にとってご覧ください。老いてますます盛んな著者の今後ともの活躍を期待します。
(2011年3月刊。1500円+税)

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