弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年4月 7日

和解する脳

著者  池谷 裕二・鈴木 仁志、    出版  講談社
 
 若手(と言ったら失礼にあたるでしょうね。中堅と言うべきですね)弁護士が高名な若手(同じく)と対談した本です。大変面白い話が満載でした。
 人間の遺伝子は10万と推測されていたが、実は2万台だった。神経細胞は100億という人もいるが、最近では1000億という説が有力。
 遺伝子と脳は、親子の関係というより、むしろ対立関係にある。遺伝子の本来の進化のあり方に対して、脳が違う動きを始めた。脳幹が大脳皮質をコントロールしていたけれど、人間では大脳皮質が脳幹をコントロールするという立場の逆転が起きている。
 再起のないものは言語ではない。サルが言葉を覚えても、文法はできない。無限という概念が分かるのは、再起のできる人間だけ。無限が分かると、無限ではない有限が分かる。
 3歳児は、かくれんぼが出来ない。自分から相手が見えなければ、相手も自分が見えないと思っている。つまり、他者視点でものが見えていない。3歳児は再起がまだ出来ない。
 言語活動の訓練を通じて十分に脳を成熟させてあげないと、他人との関係性をよく認識できない大人になってしまいかねない。
 紛争のない社会のほうが気持ち悪い。かなり人為的に意思統一させられない限り、争いが起こるのは当然のこと。
日本の裁判では偽証が構行している。はっきり言って、そのとおりだと思います。しかし、かと言って、何が真実なのかを見抜くのは実に容易なことではありません。ですから「偽証」の立証は至難に業なのです。
 脳は思いこみをする。裁判官のなかには、この事件はこうじゃないかと心証を形成すると、それ以降、その流れをサポートする証拠ばかり見ようとする。大脳皮質は作話を始める。そのとき、本人には嘘をついている自覚がない。心から自分の発言を信じている。嘘をついているときは前頭葉が活動している。本当のことを話しているときは、脳の後の方が活動している。うへーっ、そうなんですか・・・。
 カウンセリングの基本は、聞くこと。誰か一人でも受け入れてあげる。受容してあげることが大切。反感をもっているときに聞いても、それは受け容れない。和解するときの究極の目標は、相対的な快感をつくり出すことに尽きる。裁判官は、提出された論理構成のなかで、「落ち着き」のいい結論にたどり着くのに一番つかいやすい論理を用いる。
 和解をすすめるときにも、弁護士が決めたように思わせないようにもっていくのが重要。情報を置いておいたら、それを見た当事者が自分で決めたという形にすると、自分で将来を切り開ける。このとき、本人の納得度は高い。
 これは弁護士にとって大切な指摘です。ところが、本人の納得度をあまり重視しすぎると、まとまる話もまとまりません。そのかねあいは実に難しいところです。
 人間は、互恵性のシステムを遺伝的にもつ生物である。そのシステムを維持することが最終的に自分のためになる。不公正感は、もともと人間の持っている互恵的利他性から出てくる感情だと思う。
 和解のもつ意義を考え直させてくれる本でもありました。
(2010年11月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー