弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年3月18日

無縁社会の正体

社会

著者  橘木 俊詔、   出版  PHP研究所
 この著者の本は、いつものことながら、とても実証的で大変勉強になります。
日本の自殺者は毎年3万人を超えているが、自殺者の多い40歳代から60歳代では、男性の自殺者数は女性の3倍になっている。自殺の理由は健康問題と経済問題の2つで79%つまり8割を占めている。
 戦前の日本では単身者は5~6%と、非常に少なかった。ところが2010年に31.2%となり、これから2030年には37.4%になると見込まれている。3分の1以上、4割に近い単独世帯である。これは、結婚しない単身者の増加と老後に一人で住む人の増加による。
 貧困大国・日本はあながち誇張ではない。そして、貧困者をふくむ低所得高齢者の所得は年金しかないのが現実だ。
 年金給付額をアップせよというと反対論が起きる。自立の精神にもとづいて、老後の生活に備えて自己資金を十分に蓄えておくべきだという考え方である。しかし現実には、これらの高齢者の多くは、若・中年期の所得が低かったうえ、それほど贅沢な消費をしていなくとも、貯蓄にまわせる分が少なかったので貯蓄額が低かったのであって、本人だけの責任ではない。
 そうなんですよね。自己責任という前に、社会がきちんと機会を与えていなかった、否むしろ、その機会を奪っていたという現実を直視すべきではないでしょうか。自己責任論は政治の責任をあいまいにしてしまいます。
 日本の貧困は、母子家庭における深刻さが目立つ。高齢単身者は、全貧困者のうち5分の1を占めている。貧困に苦しむ高齢者(とくに単身者)は、生活保護制度に対してほとんど期待できないのが現実である。資産調査が厳しいし、申請書類が複雑だし、恥の感情から申請をためらう。
戦前までの日本は、国民皆婚時代と呼ばれるほど、ほとんどの人が結婚した。しかし、1970年代半ばから婚姻率が7~8%と低下しはじめ、現代では5%にまでなっている。生涯に一度も結婚しない人(生涯未婚率)は戦前までは2%以下だった。ところが、1990年代に入ると5%をこえ、ここ15年のうちに5.5%から16.0%へと3倍も増えた。
お見合い結婚は、50年前には結婚全体の半数以上を占めていた。今では、1割にもみたない。結婚にあたって仲人を立てる人が激減し、1994年に63.9%だったのが、2005年には1.3%でしかない。結婚は、当事者同士だけのものとなっている。
私の住む町にも一人暮らしは多く、同じ団地内には数多くの人が一人で生活しています。老後を安心して生活できる社会環境にない日本って、本当に残念です。そして、その解決には消費税を増税するしかないという議論があまりにも多すぎます。消費税を増税しても法人税減税の穴埋めにつかってきた事実があるわけですから、ごまかしはやめてほしいと思います。いろいろ考えさせてくれる本でした。
 
(2010年2月刊。1600円+税)

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