弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年1月28日

さすらいの舞姫

朝鮮(韓国)

著者  西木  正明、   光文社 出版 
 
 戦前の日本で世界的なバレリーナとして有名だった崔承喜が、戦後、北朝鮮の闇のなかで静粛され消えていくまでを明らかにした長編小説です。900頁もの大作ですので、じっくり崔承喜がどんなに素晴らしいモダンバレエを踊っていたのか、なんとなく想像できます。でも、やっぱり映像で彼女の雄姿を見てみたいものだと思いました。
 美貌と抜群のプロポーションで、道行く人がハッと振り返るほどだったそうです。そのうえ、あふれんばかりの芸術的才能を持っていたというのですから、まさに鬼に金棒ですね。生前、あの川端康成が絶賛していたといいます。
 崔承喜は韓国の両班の家に生まれ育ちましたが、ある日、バレエを志し、日本人の舞踏家である石井獏に押しかけ弟子入りをします。日本へ渡って、東京は自由が丘に住み込みでモダンの・バレエの練習に励むのでした。そうこうするうちに、朝鮮古来の踊りも取り入れ、披露するようになります。やがて、崔承喜のバレエは日本で大評判となり、ついにはアメリカに招かれて公演することになりました。崔承喜は、同じ韓国人でマルキストの安承弼と結婚します。売れない作家の夫は崔承喜のマネージャー役を買ってでるのでした。
 アメリカの公演が大成功し、次にはフランスに渡って、そこでも公演して好評を博します。すごいものですね。練習だけではなく、やはり天賦の才能があったのでしょうね。
やがて第二次大戦が始まります。崔承喜は日本軍の最前線まで慰問に出かけるのでした。そして、終戦。夫とともに崔承喜は北朝鮮に入ります。その選択が、結局は命取りになるのでした。ここらあたりからは著者が当時の北朝鮮内部の権力闘争を要領よく解き明かして、金日成がライバルたちを蹴落としていく状況を描いています。
金日成が自信たっぷりに朝鮮戦争を始め、緒戦の勝ち戦が一変して敗北の泥沼に陥り、中国軍の介入でやっと権力を維持するのですが、その権力闘争の渦のなかで、崔承喜は夫ともども闇のなかに消されてしまったのです。まことに金日成とは罪な権力者でした。
 この本の最後は、崔承喜が北朝鮮の治安当局によって連行される場面となっています。娘と息子の運命はどうなったのでしょうか・・・・。いずれにしても、小説という手法で崔承喜という不世出のバレリーナのたどったみちが克明に紹介されていて、とても勉強にもなりました。同じ著者の『夢顔さんによろしく』も大変面白く読みましたが、著者の綿密な調査に裏付けられた筆力には感嘆するばかりです。
(2010年7月刊。2300円+税)
火曜日の午前中皇居前の広場を通りました。広々とした芝生のあちこちに青いビニールシートを敷いた芝生のあちこちに青いビニールシートを敷いたホームレスの人たちが眠っていました。ざっと見渡すと50人ほどが点在していたように思います。朝は厳しい冷え込みでしたが、私が通ったころには天気が良く3月の陽気を思わせるほどでした。大勢の観光客が皇居を目指して歩いていましたが、相変わらずホームレスの人が多いことを象徴していました。年越し派遣村が出来て大騒ぎしたのが嘘のようにマスコミは取り上げなくなりましたが、もっと真剣に貧困格差の拡大の防止策を講じるべきだとつくづく思いました。

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