弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年1月14日

ルポ生活保護

社会

  著者  本田良一  、中公新書  出版 
 
いま日本は、生活保護の受給者数でみれば、1955年、56年と同じ状況にある。
1955年に192万人、1956年に177万人だった。それに対して、2010年は186万人とほぼ同じである。
保護費は国が4分の3を、残り4分の1を地元自治体が負担する。受給者を快く思っていない市民が少なくない。昼間から酒を飲んでいるとかパチンコ店に通っているという通報が福祉事務所へ寄せられる。しかし、地方自治体にとって、現実には生活保護は受給者の生活を支えるだけでなく、地域経済を下支えする「第四の基幹産業」になっている。
日本国憲法25条1項は次のように定めている。すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する。忘れてはいけない大切な憲法の条項です。
 母子世帯のうち、生活保護を受けている割合は13.3%。つまり、日本ではひとり親の
2世帯に1世帯以上が貧困状態にあるが、生活保護を受けているのは、8世帯のうち1世帯程度にすぎない。
子どもの学力は家庭や塾に負うところが大きくなっている。ところが、いま日本の家庭は、教育費負担があまりに大きい。大学に進学すると、1年で最低で100万円、多いと240万円かかる。4年間では、少なくとも400万円、多ければ1000万円かかってしまう。なぜこうなっているかというと、家庭に代わって政府が負担する部分が少なくないから。その結果、家庭の経済力の違いによって、子どもの教育機会が不均等となり、子どもの将来格差を生み、世代をこえて貧困が再生産されていく。
いまの生活保護制度は、丸裸になった人に、全部、着物を着せてあげるものになっている。住宅やローン、生命保険、金融資産などの、すべての資産を使い尽くさないと保護を受けられないという制度では、再挑戦の機会も意欲も奪ってしまう。そうなんですよね。弁護士として相談を受けていて、大いなる矛盾を感じることが多々あります。
 貧困世帯の8割以上が生活保護を受けずに暮らしている。貧困を放置すると、社会が貧困者と、そうでない人に分裂して、破綻してしまう。絶望のあげく自殺が増え、また犯罪が増える。
 国が負担する保護費は2009年度、2兆円をこえた。そのうち半分の1兆4千億円が医療扶助となっている。いま生活保護受給者が増えているのは、ほかの制度の矛盾をすべて生活保護が受け止めているから。貧困対策を進めていくうえで、セーフティーネットの拡充は、社会を維持するために必要な投資なのだという社会の合意が不可欠である。
先に(12月7日)釧路市の生活保護についての先進的な取り組み『希望を持って生きる』を紹介しましたが、この本にも、そのことが紹介されています。
日本社会が安全・安心に生活できるものであり続けるためにも貧困対策は大きな意味をもっていることをお互いに確認したいものです。とても分かりやすい新書です。先の本とあわせて一読をおすすめします。

(2010年8月刊。780円+税)

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