弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年10月26日

封印

司法(警察)

 著者 津島 稜、  出版 角川書店
 
 1982年(昭和57年)秋に発覚して、世間で大問題となった大阪府警のゲーム機汚職事件について、当時、産経新聞大阪社会部にいて事件を追及していた著者の体験をもとにしたノンフィクションのような小説です。さすが迫真の描写です。逮捕者5人、現職警官ら124人が処分された史上最大の警官汚職事件の発端から最後までが生々しく描かれています。
 とりわけ、スクープを抑えようとする新聞社の経営幹部の言動、そして、当時の府警本部長だったキャリア警察官(警察大学校の校長)の自殺に至る経過などが強く印象に残りました。ただ、「あとがき」に府警内部の「餞別・祝儀」という習慣がなくなり、網紀粛正が徹底している、と書かれていますが、本当にそうなのか、私には信じられません。今も巧妙に形を変えて残っているのではないでしょうか。狙撃された国松元警察庁長官が超高級マンションになぜ住めたのか、その謎はいまもって明らかにされていません。
 そして、この本は、大阪地検特捜部を評価する本でもあるのですが、現在進行形の証拠偽造事件を知るにつけ、当時から無理な捜査をしていなかったのか、知りたいところでもあります。それはともかくとして、地検特捜部と警察との微妙な関係もよく描かれていて、大いに勉強になりました。
 大阪特捜は、事件捜査について、土肥氏らが培った伝統を継承した時代から、合理的かつ効率的な立件を重視する時代へと移行しつつある。大阪特捜にも時代の転換期が訪れたのかもしれない。
 府警幹部にからむ裏金の処理問題などを警察庁に正直に報告しても意味はない。自分の首をしめかねない。全国に同じような事情があることは警察庁も十分承知のところである。バカ正直な報告を受けると、建前上、警察庁も処分なり改善を指示しなければならない。だから、警察庁もそんなことは期待なんかしていない。
警察庁のホンネは、第一に無用の捜査は速やかに終結せよ、第二に、捜査の過程で予測できる疑惑については無視して凍結せよ。府警本部長が多数の業者団体から接待を受けようが、祝い金や餞別を受け取ろうが、問題ではない。それを問題にしたら、本部長は今後、異動も昇進もできなくなる。
そして、マスコミの内部ではスクープを止める力が働いた。ある経営幹部は次のように言った。
 こんな特ダネはいらん。うちの社は府警に世話になっている。本社主催のイベントで大掛かりな交通整理をしてもらっているし、印刷工場周辺に信号機も設置してもらった。最近も販売局が購買部数で協力を頼んでいる。
そうですよね。マスコミと警察の癒着は目に余ります・・・・。30年近くも前の出来事ではありますが、古くて新しいテーマだと思いました。

 
(2010年月刊。1900円+税)

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