弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年10月15日

だいじょうぶ3組

社会

 著者 乙武 洋匡、  講談社 出版 
 
 あの乙武さんが小説を書いたのです。正直言って、まったく期待せず、いつものように軽く読み飛ばすつもりでした。270頁ほどの本なら、30分もあれば楽勝だと見込んでいたのです。実際、その程度で読んでいる本は多いのです。また、そうでもないと、年間500冊を読むのは無理なんです。どうして、そんなに無理してまで速く読むのかって・・・・。それは、次に読みたい、知りたいことの書いてある本が待っているからなのです。世の中って、不思議なことだらけじゃありませんか。私は、それを少しでも知りたいし、その本を手がかりにして、いろいろ考えてみたいのです。
 それはともかく、この本は、30分どころじゃありません。予想以上に手こずり、その3倍もかかってしまいました。なぜか・・・・。要するに、一言でいうと面白かったからです。すごく面白くて、じっくり味読したいと私の脳が要求したのです。すると、途端に頁をめくるスピードが落ちてしまいます。30分を過ぎたところで、この本の3分の1も読んでいないのに気がついて、思わず焦ってしまいました。
乙武さんの初めての小説とは思えないほどよく出来た情景描写、心理描写があり、ぐいぐいと教室内に引きずり込まれていったのでした。私も子どものころに戻り、小学生になった気分に浸ることができました。
乙武さんは、現実にも、小学校の教師として3年間つとめました。この本は、その体験をもとにしていますし、乙武さんそのものの赤尾先生が登場します。ちなみに、赤尾っていうと、豆単、英語の小さい単語集を思い出しますよね・・・・。
 -何かで一番になろうと思ったら、当然、努力が必要になってくる。でも、努力してがんばって、それでも一番になれなかったら、子どもは傷つく。自分は、ここまでの人間なんだって、天井が、自分の限界が見えてしまう。だったら、初めから一等賞なんて目ざさないと考える子がいても不思議じゃない。もちろん、そこに成長はない。でも、成長しないぶん、傷つくこともない。自分は本気を出していないだけなんだ。本気さえ出せば、いつかは何とかなる、そんな夢を見続けることができる。
 -そんなの、夢って言わねえよ。ただ逃げているだけじゃん。
 -一番になろうと努力することは大事なんじゃないかな。その努力が自分の能力を伸ばすだろうし、逆に、努力しても報われない経験を通して、挫折を知ることができる。
 挫折って、大事だと思う。傷つくのはしんどいけれど、人間は挫折をくり返すことで学んでいくんじゃないのかな。自分がどんな人間なのか。どんなことに向いていて、どんなことに向いていないのか、なんてことを・・・・。
いやあ、これって、本当に大切な指摘ですよね。でも、あまりに重たい指摘でもありますね・・・・。
赤尾先生には、手も足もないけれど、私たちには最高の先生だったよ。
 これは終業式の日、黒板に大きく書かれていたメッセージです。受け持った28人の子どもたちの一人ひとりに目を配りながら、みんな違って、みんないいという温かい目で見守り通してくれる教師の存在は偉大です。
とても心温まる、いい本でした。あなたもぜひお読みください。最近、ちょっと疲れてるな。そんな気分の人には最適ですよ。
 
(2010年9月刊。1400円+税)

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