弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年10月11日

卵をめぐる祖父の戦争

ロシア

 著者 デイヴィッド・ペニオフ、 早川書房 出版 
 
 ナチス・ドイツに包囲され、飢餓にあえぐレニングラード。その戦いの規模は『攻防900日-包囲されたレニングラード』(早川書房)で詳細に紹介されています。この本は、そのレニングラード防衛戦の実情を、ソ連軍からの「脱走兵」とされてしまった二人の若者の奇妙な戦争を通して浮きぼりにします。なるほど、小説って、こうやって悲惨な戦争の実態を読み物にしてしまうのですね・・・・。
 飢えに苦しむレニングラード市民、地雷犬の無残な死など、戦争の悲惨さがリアルに描かれている。ソ連政府の発表でも、100万人もの市民が生命を落としたレニングラード攻防戦。それでも、ナチス・ドイツに征服されることなく、守り抜いた。その陰には、多大の犠牲があった。しかし、レニングラードを防衛する軍の上層部には、娘の結婚式のためにケーキが必要だ、そのために卵を1ダース調達してこいと命令するくらいの余裕はあった。卵1ダースを調達するために、二人の若者が戦場へ生命かけて探しまわる。そんなお話です。なんともまあ、悲惨な状況での、おとぼけた話の展開ではあります。
 戦場の奇妙な現実を、それなりに反映しているのだろうなと思いながら、ついつい引きずりこまれて読了しました。
 
(2010年8月刊。1600円+税)

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