弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年9月20日

『偽史と奇書の日本史』

日本史

著者:佐伯 修、出版社:現代書館

 この本を読むと、日本人は古くから歴史を愛する一方で、歴史の偽造も好む民族なのではないかという気がしてきます。
歴史を愛するという点では、佐賀の吉野ケ里遺跡が発掘されるや、年間数十万人もの見物客が押し寄せますし、青森の三内丸山遺跡もすごい集客力を持っています。
そして、邪馬台国はやっぱり九州にあったという本を立て続けに2冊読んで、九州説を信奉する私は心躍る思いがしています。やっぱり、日本の文明は九州の地で発祥したのですよ・・・。
 偽書といえば、私にとっては、まず第一に戦国時代の裏話を描いたという『武功夜話』が衝撃的でした。なにしろ、昭和34年(1959年)に発見されたというものです。戦国時代の先祖の体験にもとづいて江戸時代に書かれたというものの、明治や昭和の知識にもとづいて書かれた記述があるという指摘があり、後世の偽作であることは間違いないようです。ところが、あまりにもよく出来ているため、これを事実としてたくさんの小説が書かれています。
 たとえば、津本陽『天下は夢か』、遠藤周作『男の一生』、秋山駿『織田信長』などです。私が最近読んだ本にも、この『武功夜話』を史実とする前提のものが何冊もあります。そのたびに、もっと勉強してよねと疑問を感じるのです。
 『武功夜話』を史実だとして紹介するのなら、少なくとも、これらの偽書説についての合理的な反論を示すべきではないでしょうか。
 もう一つは、『東日流外三郡誌』です。「つがるそとさんぐんし」と読みます。戦後も戦後、1975年(昭和50年)に、青森県五所川原市の和田氏宅の天井裏から古文書が発見されたという触れ込みでした。
古代の東北に、西の邪馬台国や大和朝廷とは別の王国があったという内容です。今やとんでもない偽書だったことは明らかですが、小説家の高橋克彦などが、これを事実として小説を書いたりして大反響を呼んだのでした。
 まことに日本人は古来より歴史を愛する民族なのだと思わせる、面白い本です。
(2007年4月刊。2300円+税)

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