弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2010年9月14日
訴訟に勝つ実践的文章術
司法
著者 スティーブン・D・スターク、 日本評論社 出版
裁判所に提出し、裁判官に読んでもらう書面の書き方について、原則をじっくり教えてくれる本として、大変参考になりました。私も、さらにやさしく、分かりやすい言葉で準備書面を書くように努めたいと思います。
裁判官は、テンポの速い世界で生活しているので、文書は急いで読むが、まったく読まないのかのどちらかなのである。文章を書きはじめる前に、何が言いたいかについて明快な考えがなければいけない。自分のすすむ方向をまっすぐに定めるためには骨子が役に立つ。
そうなんです。私も、まずメモ的に骨子を書きなぐっておきます。それなしで筆まかせに書きすすめるということは、まずしません。メモは出来たら白紙に書きます。
法律文書を書くときには、最初に結論を書くことが大切である。結論をあとで示すと、最後まで書面を読まないと何が言いたいのか分からないし、それが正しいのかどうかを確かめるために、何度も読み直さなければならなくなる。
大切なことは、まず結論を書く。次に、第一印象は強烈な印象を残すことを忘れない。第三に、初めて読む人が簡単に読める、分かりやすい文章にすること。
第四に忙しい読書も理解力に乏しい読者も理解できること。
弁護士は、ふつう自分たちのことをプロの物書きとは考えていない。しかし、法律家は文筆の一種なのである。
そうなんです。私は、いつも、作家ではない、モノカキだと自称しています。
文書の作成は孤独な作業である。だから、一日の一定の時間は一人になれるようにすることを確保し、それを日課とする。書くことは運動することに似ている。毎日の習慣にすることで、容易にできるようになる。
この本の著者は口述で書面を作成すべきではないとしています。
口述で作成した文書には、似たような文章がくり返して出てくる。長い引用があったり、表現が大げさになりがちだ。書くという行為は、口述するというより、自分の中の声を聞くというもので、どちらかというと口述を受けるようなものだ。原稿を見返すときには、必ず印刷したうえで、読み手と同じ読み方をする。パソコンの画面で読むと、印刷したものを読むときより集中力が落ちて、見落としが多くなる。
事件の9割は感情で決まってしまう。自分が気に入った結論に説得力を持たせるため、理性をもって書いている。判例は、その事件に当てはまる理論そのものではなく、その理論を支持するものにすぎない。事実から議論が生まれることはあるが、議論から事実が生まれることはまず、ない。事実が大切なのである。裁判官は事実を知ることなく、判断することはできない。
そして、相手の主張や非難のすべてに一つひとつ答える必要はない。相手の悪口は言わない。相手をけなしたり、倫理的・道徳的な欠点に言及すればするほど、裁判官の目にうつる自分自身の品性をおとしめる危険がある。
注目してほしい文章に下線を引いて強調するのは良くない。そして、脚注は控え目にすべき。具体的で説得力のある見出しを工夫する。見出しは、法律文書の中で唯一、ユーモアをこめると、内容が正確である限り、若干の誇張が許される場所である。
陳述書は、弁護士の書く文書ではあるが、それに署名した人自身の言葉で書かれるべきである。
スピーチのときには、原稿を見ながら話してはいけない。また、結論を先に言ってもいけない。聴衆が話し手を知り、信頼するまでに一定の時間を要する。はじめのうちは自己紹介や個人的なエピソードをゆっくり話すなどして、聴衆が親しみ感じたころに、主題を切り出す。
スピーチの最重要部分は、法廷では講義をするように話すのではなく、一対一で会話するように話す。そして、話しながら動いてはいけない。自信をもって、落ち着いて、協力的な態度をとって話す。どんなに難しい質問をされても、しかめ面などせず、あたかもチャレンジを楽しんでいるかのように見せる。
話す準備ができても、2~3秒間は、沈黙する。聴衆に聞く準備をさせるためである。
280頁ほどの本で2800円というのは高過ぎるかなという気もしましたが、こうやって読んでみると、決して高いとは思えません。文章には多少の自信がある私ですが、大変勉強になり、考えさせられました。
(2010年6月刊。2800円+税)
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