弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年8月25日

人材の複雑方程式

社会

 著者 守島 基博、日経プレミアシリーズ  出版 
 
 日本の企業における人材育成のあり方について問いかけている本です。
いま、企業のなかで職場が衰退し、そのなかで職場が果たしてきた基本機能が弱体化しはじめているのではないか。これまで、日本企業、とりわけ製造業の強みは、すりあわせの機能にあった。そして、このすりあわせを可能にしてきたのは職場集団の存在であった。それがしっかりしてきたからこそ、このすりあわせ能が培われ、維持されてきた。
職場は、少なくともこれまでは、メンバーがお互いに見える距離で働いていたために、そのなかにライバルを見つけるのは容易だった。職場は、協働の場であると同時に、競争の場でもあった。また、育成の場であると同時に評価・選別の場でもあった。能力のある人材は、職場のなかで評価され、チャレンジのある仕事を与えられてテストされ、勝敗が決まって、選別されていった。こうした丁寧な評価を可能にしたのも職場であった。
こうした職場の機能が、今、ゆらいでいる。しかし、職場こそ、日本企業のきわめて重要な財産なのである。職場の働きが、日本企業の強みをつくってきた。
ところが、今では、組織全体や職場が、これまでのような同質性の高い人たちの集まりではなく、もっと多様な意識と価値観や生き方を背負ってきた人たちの集まりになってしまった。多様性の高い集団のもたらす帰結のひとつは、深層での考え方や意識の違いによる不満の多様化である。
日本の組織は、過去20年間、人のつながりとしての側面を失ってきた。逆に、仕事をする場所であるという本来の機能が強くなった。いま、組織は、多様化と脱コミュニティ化が同時にすすむ場面となっている。
コンプライアンス、つまり法令遵守、そして、内部統制が重視されている。そのなかでは、従業員を信頼しない経営者が増えている。企業が、コンプライアンスの名の下に、働く人を信用しない施策を導入したとき、従業員は経営者の長期的意図を信頼せず、その仕組みのなかで期待されたとおりの短期利益志向型の行動をとる可能性が高い。つまり、従業員はルールに従うこと自体を目的をし、自律的に考えることをやめてしまう。
リーダーシップは、本来のリーダーになりたいという意欲に依存する部分が大きい。能力や資質がどんなに備わっていても、リーダーになりたくない人は、リーダーには向かない。
職場が変容し、共同体としての人と人のつながりがなくなることで、メンバー間のコミュニケーションが少なくなった。
現在、日本の企業がとりいれている成果主義には、導入プロセスに問題があるだけでなく、もっと構造的な欠陥があり、そのために多くの企業で成果主義は働く人から反発されている。人材育成、それも選抜された人材だけに限定されない人材育成が重要なのである。働く人の「夢」を維持するためにこそ人材育成は重要なのである。
多くの人にとって、自分の能力を高めて成果を出し、それが評価されることがやる気につながる。人材育成は、単に能力を高めるための施策としてだけではなく、働く人の「夢」の源泉となる経営機能なのである。
変化する日本の職場の現実をふまえて、人材育成のあり方を考えた貴重な指摘だと思いました。
 
(2010年5月刊。850円+税)

  ボーヌからワイン街道を行く観光タクシーに乗りました。前日、観光案内所で予約しておいたのです、幸いにも私たちだけで、他に客はいません。運転手兼ガイドの女性が、ブドウ畑についていろいろ解説してくれます。英語は分かりませんので、フランス語でお願いしました。よく晴れた青空の下、緑滴る広大なブドウ畑のなか、車を走らせます。本当に気持ちのいいものです。ポマール、ヴォルネー、ムルソー、シャッサーニュ・モンラッシェというワインの銘柄としても有名な村々を通っていきます。バカンス中なのか、ほとんど人の気配はありません。たまにブドウ畑でトラクターのよな機械が動いているのを見かけるくらいです。サントネー村でカーブ(ワインを寝かせている地下の穴蔵)に入り、出てきたところで、赤と白のワイン3種類ずつを試飲させてもらいます。違いが分かるというのではありませんが、飲み比べると、たしかに値段の高いほうが、舌あたりも良くて美味しく感じられます。
 コート・ド・ボーヌのワイン街道をたっぷり堪能できました。

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