弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年7月 7日

ルポ戦場出稼ぎ労働者

中東

 著者 安田 純平、集英社新書出版 
 
 あのイラクへ出稼ぎ労働者として潜り込んだ日本人記者の体験記です。すごい勇気ですね。とても真似できるものではありません。
ペルシャ湾岸の国々では、労働者のほとんどを出稼ぎ労働者が担っている。クウェートに在住する300万人のうち、7割はアジアからの出稼ぎ労働者である。
 たとえば、公園掃除は、食事・宿泊費を別に月給8千円。電気技師でも食事・宿泊込みで月給2万8千円。イラクで働けると、未熟練労働者でも相対的にかなりの高給となる。
 イラクにある数千人、数万人規模のアメリカ軍の兵士を食べさせるアメリカ軍基地の食堂はメニューのほとんどは調理済みのレトルトパック食品を温めるだけ。著者の場合は30人ほどを相手にするので、レトルト食品は使わず、基本的に一から作った。
 そうなんです。日本人記者である著者は、コック見習いとして基地の一つに何とか潜り込めたのでした。
ネパール人警備員の月給は1250ドル。監督は1700ドル。護送部隊のイギリス人コマンダーは2万4000ドル、イギリス人司令官は5万ドル。このほか、1ヶ月に100ドルの生活費、40ドル分の携帯電話プリペイドカードが支給される。
 人質にとらわれたとき、身代金はネパール人は6千ドル、日本人なら1万5千ドル。アメリカ人は2万ドルという相場がある。
 「イラク人は、昼間は労働者として基地内で働き、警備状況や人数、武器などを調べ、夜は民兵として活動している」
 こんな話も聞かされたのでした。
2007年5月の時点で、イラクには15万人のアメリカ兵をふくめ、36ヶ国から集まった労働者12万人がペンタゴン(アメリカ国防総省)関連で仕事をしていた。民間人労働者の死者は、その時点までに少なくとも917人、負傷者は1万2千人以上だった。
 イラクが混乱したのは、生活が改善されないことから自暴自棄になった人々が無数にいるから。アメリカ軍が、これを武器で抑えつけようとして、ますます強い反発をうけた。イラクの人々に対して柔軟に対応できない硬直化した体制が、占領の「失敗」につながった。アメリカ軍の基地内の掃除や通訳などで、10万人以上のイラク人がアメリカ関連の業務についているが、「アメリカの協力者」として民兵に襲われる事件が絶えない。
 イラクの復興事業費のうち、アメリカ政府の試算によると22%、国連関係の調査では40%が警備関連に費やされている。そして、アメリカのべクテル社は、発電所復旧事業について20億ドルを手にしながら、戦前の水準にまで戻すことすら出来ないうちに2006年に撤退した。
 戦場労働者は、自らの労働が戦争を動かしていると実感することはない。無意識のまま心身ともに戦争の歯車となっていく。
 よくぞイラクの戦場労働の現場に潜り込めたものです。その勇気を讃えるとともに、苛酷なイラクの現実を知らせていただいたことに感謝します。 
(2010年3月刊。720円+税)
 消費税を10%に値上げする理由として、日本がギリシャのようになったら大変だということがあげられています。でも、本当にそうでしょうか。ギリシャは消費税を引き上げると同時に法人税を大幅に引き下げたので、国の税収が大きく減ったことから財政危機に陥ったという指摘もありますよね。ギリシャに行ったことはありませんが、一国の首相が見てきたようなウソを言っているのではないのかという気がしてなりません。
 しかも、国の財政が危機だというのなら、フランスやドイツでもすすめられているようですが、今の5兆円の軍事費を1兆円減らしたらどうなんでしょう。それに、アメリカ軍の基地がグアムに移転するのに、総額で3兆円も日本が負担するという話もありますよね。アメリカ軍への思いやり予算だって毎年3千億円でしょう。これんあか真っ先になくしてしまうべきではないのでしょうか。選挙の時こそ、みんなで考えたいものですよね。

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