弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年6月23日

違法捜査

司法(警察)

 著者 梶山 天 、角川学芸 出版   
 
  志布志事件の全貌が、ようやく分かった。この本を読んで、そんな気になりました。まず、登場人物が2頁にわたって紹介されています。逮捕され、結局のところ無罪となった住民のみなさんは実名です。強引な取調をした警察官とそれを支えた検察官たちは、県警本部長や検事正などを除いて大半が仮名です。これは不公平というべきでしょう。だって、警察官にあるまじきことをした人たちは、被害者がマスコミで誤って大々的に報道され、親子断絶にいたった人たちだっているのですから、全員の氏名を明らかにせよなんてことは言いませんが、検事正と県警本部長以外はみな仮名というのは、あまりに不公平だとしか思えません。とりわけ、捜査責任者だった警部と担当検事まで仮名にされているのは納得できないところです。
 事件は2003年4月の統一地方選挙に「発生」しました。現金を住民に配って投票依頼したという公選法違反ですから、事実だとしたら、今どき、とんでもないことで、厳罰に処すべきだと思います。ところが、それがとんだぬれぎぬ、でっちあげだったというのです。ひどい警察があったものです。しかも、これを「摘発」した警察官たちは部内で大々的に表彰され、盛大な祝賀会までやっていたというのです。あきれてしまいます。
 この本は、こんなひどい捜査手法に反発していた警察内部の人から貴重な資料を提供してもらって書かれていますので、弁護士の私にも大変参考になりました。たとえば、事件の構図を描いたチャート図、取り調べの調書の下書きにあたる「取調小票(とりしらべこひょう)」、鹿児島県警と鹿児島地検との裁判対策の協議会議事録などでです。そのコピーがそのまま紹介されています。すごいことです。これを見ただけでも、この本を読んだ意味がありました。
取調小票というのは上司の決裁権もある、ちゃんとした内部文書である。単なる個人的メモではない。
鹿児島県警には、「たたき割り」という取り調べの手法がある。これは、被疑者を押しつけて、大声で怒鳴りながら、相手に威圧感を与えながら自白させるというもの。
 3、4日も取り調べたら、自供なしの手ぶらでは帰さない。結果を出せば評価されるし、ダメなら刑事失格の烙印を押される。自供させられないと、「おまえはダメなヤツだ」と怒鳴られ、転勤か配置換えで飛ばされる。勤務評定に響く。これが鹿児島県警の体質である。志布志事件では、被告人の拘留日数が驚くほど長い。中山信一さんは395日。その奥さんも273日。次いで185日など、大半が100日をこえる。一番短い人でも3ヶ月。保釈申請しても8回も却下された。これでは、裁判所も同罪ですよね。否認したら保釈が認められないのを、私たち弁護士会では「人質司法」と呼んで糾弾しています。
 大原英雄判事と前澤久美子裁判官も検察庁の無謀な起訴に手を貸してしまったと言われても仕方がないように思われます。
 そして、冤罪で逮捕された人たちが弁護人を信じられずに、解任したり、面会を拒んでしまうのです。というのも、弁護人と面会すると、そのあと決まって、弁護士との会話について根掘り葉掘り訊かれて嫌になるのです。弁護人とはいえせいぜい1時間の面会。取調の刑事のほうを、長く接しているうちについつい信用してしまうのでした。被告と弁護人との接見内容を調書にするよう指示したのは、麻生興太郎検事だった。
 うへーっ、ひ、ひどいものですよ、これって・・・・。弁護人は秘密に被告人と交流できないとこを知らないはずはないのに・・・・、ですね。
 接見内容を調書に取られたのは最高17回もあったのでした。許せませんよね。
 現代日本の警察の実態を知るうえで欠かせない本だと思います。とりわけ若い弁護士のみなさんには、ぜひぜひ読んでもらいたいと思いました。 
(2010年2月刊。2000円+税)
 初夏の庭にグラジオラスが次々い咲いてくれます。ピンク、白、黄色と華やかな花々に心が騒ぎます。
 梅雨に入ったので、アガパンサスのブルーの花も開いてくれました。地上に花火が打ち上げられた格好の素敵な花です。
 ちよこさん、私のブログまでご覧いただきありがとうございます。

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