弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年6月12日

生きるって、人とつながることだ!

社会

著者:福島 智、出版社:素朴社

 9歳で失明し、18歳で聴力を失った「全盲ろう者」の著者が東大教授として活躍しています。見えない、聞こえないのに会話は出来るのです。なぜか?指点字という方法があるのです。図解してありますが、両方の手指のうちの両手3本ずつを使います。親指と小指は使いません。これで、五十音だってアルファベットだって数字だってあらわせるのです。しかも、母親が思いついたというのです。すごいです。えらいです。
 ちょっと見ただけでは覚えきれません。必死になれば身につくのでしょうね。同級生がまたたくまに覚えてそうですから、意欲さえあれば覚えて使えるようです。
 盲ろう者にとって、香りあるいは匂いは大切な情報源である。香水やシャンプーの香りだけでなく、さまざまな匂いに敏感になる。
 香りは実生活に役に立つというだけでなく、心に対しても不思議な作用を及ぼすらしい。香りが思い出と結びついているのも、その一つだ。
 私にとって干した稲ワラの匂いは子ども(小学生)のころ、田舎(大川)のおじさん(父の弟)宅の田んぼにあった稲ワラ積みの匂いです。その匂いをかぐと一瞬にして小学生の夏そして冬休みに記憶が戻ります。そして、この匂いは魚(フナ)釣りの思い出に結びついています。おじさん宅の前のクリークで夕方まで魚釣りをしていました。
 盲ろう者にとって大きな楽しみの一つは食べることである。視覚と聴覚を奪われているだけに、味覚と嗅覚は敏感だ。いきおい、食べることへの執着が深まる。といっても、必ずしも一般の人に比べて盲ろう者の鼻がいいとか、舌が肥えていることを意味するわけではない。目と耳から入る情報がないので、いわば「味そのもの」が純粋に感覚の対象になるということ。
 盲ろう者には本好きが多い。後天的に視覚と聴覚を失った人の場合、まず例外なく読書家である。盲ろう者のなかには、毎日、朝から晩まで本ばかり読んでいるという人がいるが、これは誇張ではない、
 盲ろう者はテレビが見えず、ラジオも聞けない。一人で散歩もできないし、電話で気軽におしゃべりを楽しむことも無理だ。一日中、することがない状態に置かれる。こうした状況下では、多くの盲ろう者は本を読まずにはいられない。外界の情報から隔絶された自らの希薄な現実自体を読書によって埋めようとする側面がある。
 ただし、生まれつき、あるいはごく幼い時期に盲ろう者となった人は本に興味の持てない人が少なくない。
 引越のときに苦労したのは点字書。やたらにかさばる。点字書だけでダンボール箱  150個ほどにもなる。うへーっ、そ、そうなんですね・・・。驚きました。
 すごい人です。読んでいるうちに元気が素直にもらえる、いい本です。
(2010年3月刊。1600円+税)

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