弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年5月28日

殺劫(シャーチェ)

中国

著者 ツェリン・オーセル、 出版 集広舎

 チベットにおける文化大革命の実情を写真とともに解説した本です。
 チベットに駐屯していた中国軍士官が熱心なアマチュア写真家として、チベットでの文化大革命の進行過程を写真にとっていたのが、その子どもを通じて世間に知られるようになったのです。つまりは偶然の産物です。
 文化大革命は、団塊の世代である私が中学生のころに始まり、高校生の頃が最盛期で、大学生の頃には終息に向かおうとしていたように思います。といっても、その実情は日本によく伝わってこなかったので、いったい中国で何が起きているのだろうかと怪しみながら仲間うちで話していました。
 というのも、権力者ナンバーワンの毛沢東が、ナンバーツーの劉少奇を実権派として打倒するなんて、まるで理解しがたいことだったからです。
 日本では、文化大革命という文字面を妄信して賛嘆する人たちがいました。いわゆる毛沢東派です。私は大学生でしたが、なんだかウサン臭いものを感じていました。それも道理でした。要するに、失政を重ねて権力の座から落ちていた毛沢東が、もう一度権力を握ろうとして、自己の名声を唯一最大の武器として発動した権力闘争でしかなかったのです。つまり、その内実は文化革命でも何でもなく、単なる勢力争いでしかありませんでした。
 ところが、その被害たるや、甚大かつ深刻なものがあり、いまもって中国共産党はきちんと総括しきれていないという人が少なくありません。
 文化大革命によって、チベットでも寺院が破壊されようとしたし、実際に寺院は破壊され、教典は燃やされていった。しかし、国際世論から批判されるのを恐れた周恩来は、寺院への襲撃を必死になって止めた。そのとき、かつての貴族階級の人々が打倒対象となり、公開の場で大衆的な糾弾を受けた。
 この本には、その様子が生々しく写真とともに紹介されています。そして、糾弾される人だけでなく、写真にうつった糾弾していた人にも40年後のいま、取材しているのです。当時糾弾されていた人でも、現在は復活していまなお活躍しているひとが少なからずいます。
 そして、当時、激しく糾弾していた人が、今では、宗教信仰の世界に舞い戻っている。つまりは、180度の大変身を遂げたわけである。
 はじめ、革命は我々に素晴らしい生活をもたらしてくれるものと思っていた。たとえば、役人になれるし、金持ちにもなれると思いこんでいた。しかし、時間がたつにつれ、そんなことはないことに気がついた。そして、年齢をとればとるほど死に近づく。本当に申し訳ないことをしてしまった。まだ死なないうちに、急いで悔い改める。さもないと、死んで鳥葬場に運び込まれても、ハゲワシが食ってくれない。まったく情けないことになる。
 チベットでは、今も中国政府と揉めているようです。
 40年前のチベットの写真、そして最近のチベットの状況をうつした写真によって、チベットという国のイメージが湧いてきました。貴重な本と写真集です。
 
(2009年10月刊。4600円+税)

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