弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年5月26日

不幸な国の幸福論

社会

著者:加賀乙彦、出版社:集英社新書

 私よりも20歳も年長ですし、お会いしたこともありませんが、著者に対して私は一方的に親近感を抱いています。というのも、学生時代にセツルメント活動をしていたという共通点があるうえに、40年前の東大闘争について、学生と教官との違いはあっても参画し、その体験をふまえて自伝的小説を書きすすめているところも同じだからです。しかも、フランス語を話せる(私は、ほんの少々でしかありませんが・・・)ことまで似ているからです。
 80歳を過ぎても、こんなに素晴らしい本を書いておられることに対して人生の先達として心から敬意を表します。
 なんと、75歳のとき、韓国語を始めたというのです。
 記憶力が衰えるのは脳をつかっていないからだ。何か新しいことをやれば活性化するのではないかと思い立った。年をとると生命力も枯れていくのか、好奇心や他者に対する関心が薄れ、どうしても自分とその周辺のことだけに心が向きやすくなる。だからこそ、意識して、これまで興味をもったことのないものに挑戦したり、初めてのものを見たり、聞いたり、味わったりしたほうがいい。そうすれば、昨日と同じ今日の繰り返しに慣れてしまっていた脳が大いに刺激され、活性化する。
 とっくに還暦を過ぎてしまいましたが、幸いなことに好奇心だけは薄れることがありません。次からが、この本のメインです。
 現代人は、問題に直面したとき、それをどう解決していくかという内省力、しっかりと悩み抜く力に欠けている。
 真に悩み、悩み抜くということは、自身の苦悩を材料に考え抜くということでもある。ふだんから何か問題が起きたとき、その遠因と近因を多角的、客観的に分析し、今の自分にできる対策は何かと考える習慣のある人は、自己憐憫の罠や自分の不幸を誰かのせいにしたくなる心の動きに、そう簡単に飲み込まれはしない。
 残念ながら、日本人は、概して自分の頭で考え抜くという作業が苦手である。
 しかも、現代社会は私たちから「考える」という習慣を奪いつつある。
 日本とフランスの統合失調症の患者の悩みがまるで正反対というのに驚きました。フランス人は、他人と顔や心が同じになってしまった、みんなと同じになった、自分の独自性がなくなったといって悩む。ところが、日本人は、みんなと違ってしまった、だから嫌われ、仲間はずれにされてしまうといって悩む。たしかに日本人は横並び思想って、根強いですよね。
 親に知られない秘密をもつ権利、つまりプライバシーの権利への要求こそ、最初の他者である親と自分との境界を確立し、自我意識を発達させるためのもっとも重要な要素なのだ。
 秘密をもち、それが保たれることで、母親と一体化していた幼い子どもの内に「自我」が芽生える。自分と親、ひいては自己と他者とのあいだに境界線が引かれ、自分という存在を意識するようになり、一人ひとりの人間を唯一無二の存在たらしめている人格の中枢部分が発達しはじめる。
 だから、子どもが秘密をもったら、親はその子が自立心を養いはじめたあかしとして喜ぶべきなのである。
 なーるほど、そういうことなんですか・・・。
 日本人本来の性向としては集団主義が好きでは決してないのに、日々の生活のなかでは無理をして集団主義的にふるまっている。
 人間にとって、他者に認められることは大きな喜びだ。だからといって、自分の評価を他人だけにゆだねてしまってはいけない。自分を自分で評価できること、自分という人間がこれから変わっていく可能性を秘めていることを忘れてしまったとき、人は自らを不幸へと追いやることになる。
 自殺者は年間3万人をこえる。10年間の累計は36万人に近い。日露戦争のときの戦没者は8万8千人。3年に一度、日露戦争をしているようなもの。日本の自殺率は主要先進国のなかでは突出している。アメリカ、カナダの2倍、イギリスの3倍。そして実は未遂者が10倍はいると推定されている。日本は年に30万人もの人が自殺をはかっている国なのである。
 幸福を定義しようとしてはいけない。幸福について誰かがした定義をそのままうのみにしてもいけない。
 本当によくよく考えさせられる、味わい深い本でした。一読をおすすめします。
(2009年12月刊。720円+税)
 青森県にある三沢基地を小雨の中見てきました。湖に面して巨大な通信傍受施設があります。ゾウのオリと呼ばれていますが、なるほど圧倒されるほどの大きさです。おもいやり予算(年に2千億円)で作られた立派なアパート群も見ました。アメリカの将兵は本当に大切にされています。
 案内してくれたタクシー運転手の男性は私と同世代でしたが、アメリカ軍と三沢氏は共存共栄している、普天間基地の代わりを引き受けてもいいという口振りでした。三沢市長は公式にそのように言っているそうです。三沢市民の5人に1人がアメリカ軍の将兵と家族だそうです。何の産業もないところですので、生活の糧になっているようです。
 それでも私はアメリカ軍の基地が日本にあるのはおかしいし、戦争を招くだけだと思うのです。皆さん、いかがでしょうか。

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