弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年5月16日

カデナ

アメリカ

著者:池澤夏樹、出版社:新潮社

 私が物心ついたころ、既にベトナム戦争は始まっていました。大学生のころは、その絶頂期でした。あとで知ったのですが、私とまったく同世代のアメリカ人青年がベトナムのジャングルに送られ、「ベトコン」と戦い、殺し、殺されていたのです。50万人ものアメリカ兵がベトナムに送られていたなんて、とても信じられません。いま、イラクにも50万人ものアメリカ兵はいないでしょう。そして、ベトナムに送られたアメリカ人の1割にあたる5万5千人の青年が戦死しました。もちろん、ベトナム人の死者は桁が2つも違います。
 今も当時も、私には、アメリカのベトナム戦争に大義があったなんて考えられません。まさに大義なき侵略戦争でした。アメリカ帝国主義の威信をかけた侵略戦争です。超大国アメリカが最新兵器を続々と送り続けて、ついにベトナムの人々から惨めに叩き出されてしまったのです。サイゴンのアメリカ大使館からヘリコプターにぶら下がって逃げ出していくアメリカ人の醜い姿を見て、みんなで手を叩いて喜んだものでした。侵略者の哀れな末路です。
 この本は、まだアメリカがベトナムに北爆していたころ、沖縄でのささやかな反戦運動をテーマとしています。
 アメリカ空軍のB52がベトナムの上空に入りこんで、大々的に爆弾を落としていきます。ひどいものです。許されることではありません。そのルート、目的地、日時を探り出し、ベトナムに伝達する。それを使命とした人が沖縄にいたのでしょう。沖縄から飛び立つB52の操縦士たちに近づいて情報を得て、ベトナムに知らせるのです。それをフツーの市民がやっていたのでした。そして、アメリカの脱走兵を逃がす仕事もありました。
 B52機が沖縄の基地で、大爆発するという事故も起きました。
 ベトナム人を虐殺するのに関わって罪の意識にさいなまれ、悩むアメリカ兵も登場します。そうでしょうね。人間として当然の反応です。
 日常生活の淡々とした情景描写のように見せて、沖縄におけるベトナム反戦の取り組みの一コマを垣間見せてくれる貴重な本だと思いました。
 私にとっても、この小説の舞台となった1968年は忘れられない年です。大学2年生のとき、東大闘争が始まったのでした。
(2009年10月刊。1900円+税)

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