弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年4月25日

ゲゲゲの女房

社会

著者:武良布枝、出版社:実業之日本社

 「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である水木しげるの奥様による自伝です。NHKで連続テレビ小説になっているそうですが、私はテレビは見ませんので、そちらは分かりません。
 しみじみとした、いい本です。人生の悲哀を感じさせます。人生は、終わり良ければ、すべて良し。この言葉は奥様のつぶやきです。なんだかホッとさせられますね。
 「少年マガジン」にデビューしたとき43歳、猛烈に忙しくなったのが44歳、それから必死で走り続けて50歳をすぎ、心と体がついに悲鳴をあげた。
 水木しげるは睡眠をとても大切にしてきたようです。それでも、モーレツ時代は、さすがにそうもいかなかったようですが・・・。
 少し前まで、お金になる仕事がほしいとずっと思い続けてきたけれど、ここまで忙しい事態は想像していなかった。成功しても、水木の体がボロボロになってしまったのでは、幸せとはいえない。
 睡眠時間は、すべての健康の基本である。いつもふらふらの寝不足ではいけない。
 水木しげるは、心配する奥様に対してこう答えた。
 オレも眠りたい。ノンキな暮らしがしたい。でも、また貧乏をするかと思うと、怖くて、仕事を断ったりすることは、とても出来ない。締め切りに追われる生活も苦しいが、貧乏に追われる生活は、もっと苦しい。それに、いまが人生の実りの時期なのかもしれない。だから、後にひいてはダメなんだ。
うむむ、力を感じます。すごい言葉ですよね。
 人気商売なので波はあり、1981年(昭和56年)ころ、仕事が急に落ち込んで、連載は一本になってしまった・・・。
 うむむ、そういうこともあったのですか。
 精魂込めてマンガを描き続ける水木の後ろ姿に奥様は、心底から感動しました。
 ひたすらカリカリと音を立てて描く後ろ姿から、目を離せなくなることが、しばしばあった。背中から立ちのぼる不思議な空気、オーラみたいなものに吸い寄せられるような気がした。この人の努力はホンモノだ。
 すごい奥様の言葉です。奥様も偉いですよね。
 貧乏な生活でした。質屋に次々に身のまわりの品を入れて借金し、そんな生活をしながら、ひたすら売れない漫画を描き続け、それを奥様が支えたのでした。ひたすら真面目に努力を重ね、ついに報われたわけですが、それに至るまでの過程が実に明るく、むしろあっけらかんと書きすすめられていて、心に深い余韻を残しています。
 境港にあるという「水木しげるロード」に一度行ってみたいと思いました。
(2009年9月刊。1200円+税)

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