弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年4月19日

時間はなぜ取り戻せないのか

宇宙

著者 橋元 淳一郎、 出版 PHPサイエンスワールド新書

 実は大変難しい内容で、私なんかとてもとても理解したとは言えません。でも、難解なことに挑戦するのも刺激があって、迫りくるボケの防止に役にいくらかは立つのではないかしらん。そう思って読みなおしてみました。
著者は私と同じ団塊世代です。京大の理学部物理学科の卒業ですから、話が難しいのも当然です。まあ読んでみてくださいな。
重力は感じる力ではなく、見える力なのである。私たちの生身の身体は、決して重力を感じることはできない。
 万有引力とて遠隔力ではなく、光速で伝わる場の振動が重力や電磁気力の正体である。
 色は物理的実在ではない。物理的に存在するのは、さまざまな波長の電磁波だけである。可視領域にある電磁波が網膜細胞に電位を生じさせそれが脳を処理する結果、私たちは色を認識する。赤外線や紫外線など可視領域以外の電磁波は私たちの網膜細胞に電位を生じさせない。その結果、赤外線や紫外線が目に入っても私たちは色を見ない。
 わたしたちは物体に色がついているものと見ていますが、実は、その色は実体がないのですね。ホント、不思議なことですよね。モノに色がないなんて……。
 モンシロチョウの網膜は、可視領域より少し波長の短い紫外線に対して反応する。それゆえ、モンシロチョウのオスはメスの羽に紫外線の色を見る。
 電磁波は、空間を伝播する波動であり、原子は狭い一点に存在する粒子である。本当にそういうものが実在するかと言うと、現在物理学はノーと見ている。唯一、確実に言えることは、観測装置との相互作用の結果、電磁波や原子のようにみえる「何か」が存在するだけである。
 光合成は1万近い化学反応の組み合わせであり、それらの化学反応のすべてが解明されたら、人工的な光合成システムが作られるかもしれない。生命が進化の過程で生み出した驚くべき能力の一つである。
相対論では、物体が速く動けば動くほど、空間はますます縮まり、時間はますます遅れる。もし物体が光と同じ秒速30万メートルで動くと、ありそうにないことが起こる。そのような物体に乗った人から見た空間は、完全にぺしゃんこであり、宇宙の果てまでの距離がゼロとなる。また、時間もまったく止まってしまう。このとき物体の質量は無限大となる。質量無限大の物体などありえないから、物体は光速と同じ秒速30万キロメートルにまで加速することは原理的に不可能なわけである。
 光は物質と違い、秒速30万キロメートルで飛ぶにもかかわらず、質量はない。これは光の特異な性質である。光の立場からみる宇宙はぺしゃんこ、時間は止まったまま、そんな奇妙な世界、時空が縮退した状態である。
 私たちは現在見ている外界の光景を現在の光景だと思っているが、それはすべて過去の光景である。1メートル眼前の恋人の姿は10億分の1秒前の恋人の姿であり、大空を飛ぶ飛行機は10万分の1秒前の飛行機であり、眩しい太陽は8分前の太陽であり、望遠鏡にかすかに浮かぶアンドロメダ銀河の姿は230万年昔の姿である。それらが1本の光の世界線として現在の「私」に届いている。現在の「私」が目にしている光景は、このように、すべて過去である。
 生命は空間的にはシステムであり、時間的には主体的意思である。時間は内観であり、空間として姿を現さない。
生命は秩序であるが、それは無秩序と常に戦う、もろい秩序である。このもろさが主体的意思を生む。なぜなら、もろいがゆえにもろさを補って、秩序を確実なものにするために、生きる意思が必要になるからである。
 みなさん、理解できましたでしょうか?私は理解できないながらも分かった気になったというより、大事なことが解明されつつあるんだなという気になりました。いかがでしょうか……?
 
(2010年1月刊。800円+税)

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