弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年3月18日

ほびっと、戦争をとめた喫茶店

社会

著者 中川 六平、 出版 講談社

 アメリカのベトナム侵略戦争反対!私の大学生のころ何回となく叫んだシュプレヒコールです。岩国基地の近くにべ平連(ベトナムに平和を!市民連合)が喫茶店を開き、反戦アメリカ兵のたまり場になっていたという話は聞いていました。
 この本は、その喫茶店でマスターとして働いていた男性が、当時の日記などをふまえて活動状況をよみがえらせてくれたのです。
 マスターと言っても、実は21歳の同志社大学生だったのでした。喫茶店を途中でやめて、大学を無事に卒業し、ジャーナリズムの世界に入りました。私より少し下の、団塊世代です。
 この本を読んで、驚いたことがいくつかありました。
 まず第一に、基地の近くで凧あげをして、ベトナムへ飛び立とうとしたアメリカ空軍の飛行機を止めたというのです。うへーっ、凧揚げって、戦争を(少しの間とはいえ)止める力があるんですね。日本の公安刑事が基地近くの凧あげを禁止しようとしますが、何の法的根拠もありません。ある若者は川にボートを浮かべて、そこで凧あげをしたというのです。
 その二は、著者を取り囲んで脅し乱暴した男性4人組の暴漢がいたのですが、それがあとで公安刑事だったというのが判明したのでした。ベトナム戦争に反対しようという日本人の声は当時からかなり大きく、多くの日本人の共通した考えになっていたと思います。それなのに、公安刑事は「おまえなんか岩国に住めないようにしてやる」と言って、「実力阻止」行動に出たのです。ひどいものです。
 第三に、デッチ上げの犯罪で喫茶店が警察によって家宅捜索されたということです。20人以上もの警官が店内に押し入ってきました。関西赤軍に自動小銃が渡ったことの関連だったのです。日本赤軍によるイスラエル空港での乱射事件の直後のことでした。とんでもない濡れ衣でしたが、そのデマの出所には赤軍派の活動家の一人の口から出まかせもあったようです。連合赤軍によるあさま山荘事件の起きたころのことです。
 それでも、その後まだ喫茶店が続いたというのですから、不思議と言えば不思議です。
 まだ21歳の、かなりいい加減なところもある(ありそうな)大学生に喫茶店の経営が任されていたというのも、かなりいいかげんな話です。
 それでも、ベトナム戦争に反対する日本人の気持ちがこういう形で示されたのはいいことですよね。ほのぼのとした中に、若者の一生懸命さが伝わってくる、いい本でした。ベトナム侵略戦争での敗北に懲りず、またもやアフガニスタンへ乗り出そうというアメリカの狂気は恐ろしい限りです。
 
(2009年10月刊。1800円+税)

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