弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年2月12日

欠陥捜査

司法

著者 三浦 良治、 出版 毎日新聞社

 実際に起きた交通事故について、警察の捜査がいかに杜撰であるか、また、検察庁はそれを追認するだけのお粗末なものだということを、なんと現職の検察事務官が告発している本です。
 この検察事務官は、大学生の息子さんがオートバイに乗って走行中にバスにはねられて即死したのです。その事故で、息子さんは一方的に悪い、バスに対して加害者だと決めつけられ、バスの運転手は何のおとがめもなかったことに憤慨しておられます。
 この本を読むと、なるほど、オートバイに乗っていた息子さんだけが『死人に口なし』として一方的に加害者だと決めつけられるのは納得できないと思います。
 警察の交通事件捜査についての対応は、事件処理を急ぐあまり、十分な捜査をしないことがある。殺人事件や汚職事件などに比べて、交通事件は件数が多いこともあるが、どうしても軽んじられる傾向が強い。
 この事故では、死亡したオートバイの運転者のみを被疑者とする実況見分調書が作成された。しかも、調書の作成は、実況見分をした日のうちに終わっている。通常なら、数日から数週間たってから完成されるものであるのに……。
 しかしながら警察官は、刑事訴訟法によって、罪とならないことが明らかな事件であっても、犯罪の嫌疑がないことが明らかになった事件であっても、これを検察庁に送付することになっている。ところが、バス運転手については、被疑者として扱われておらず、その結果として、当然のことながら検察官に送致もされていないため、捜査に不服があってもそれを訴える手段はない。
 ないと言われても、著者はめげることなく民事訴訟を提起しました。バス会社を訴えて敗訴し、さらに県警(つまり国)を捜査不十分で訴えたのです。すごい執念です。しかし、残念なことに結局のところ、民事裁判で認められることはありませんでした。
 私もオートバイに乗っていた青年の死亡事故を頼まれて2件ほど担当したことがあります。どちらも東京での事故でした。オートバイというのは、ちょっとしたはずみで死亡などの重大事故になると、刑事記録を読みながら思ったものです。
 その事件では、遺族が1億円を請求していました。私はそれを知って、とてもそんな金額は認められません。印紙代がもったいないので、3分の1くらいにしましょうと提案しました。しかし、遺族からは即座にノーという返事が返ってきました。
 そうなんです。遺族にとってはゼニカネの問題ではないのです。この検察事務官の指摘するとおり、原則として、刑事記録を誰でも(訴訟関係者は当然のこととして)見られるようにしてほしいと思います。

 陽の暮れるのが遅くなり、日曜日は膝の痛いのも忘れてジャーマンアイリスの植え替えに励んでいたところ、なんと夕方6時を過ぎていました。
 ジャーマンアイリスはいつも華麗な花を見事に咲かせてくれますが、とても丈夫で世話要らずの花です。球根がどんどん増えていきますので、株分けして知人に配って歩きました。
 いま、庭にはたくさんの白水仙のそばに黄水仙が咲き始めました。ネコヤナギの白い綿毛のような花がつくと、春到来を思わせます。
 チューリップの芽が少しずつ出ています。
 
(2009年11月刊。1500円+税)

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