弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年1月17日

新参者

司法

著者 東野 圭吾、 出版 講談社

 いやあ、うまいです。読ませます。無理なくストーリーに引き込まれていきます。いつもながらすごいワザです。感心、感嘆、感激です。
 この著者の本では、『手紙』が印象に残っています。かつて私の担当した、死刑判決を受けた被告人から、遺族への謝罪文を書くときに参考になる本を紹介してほしいと頼まれたとき、ためらうことなく『手紙』を挙げ、被告人に差し入れたことがあります。
 この本を読んで、つい、短編読み切り小説の連作かと思ってしまいました。そうではないのです。たしかに、巻末の初出一覧を見ると、『小説現代』に2004年から2009年までの5年間にわたって連載されていた9編をまとめたもののようですが、なんとなんと、結局のところ、一つの殺人事件をめぐって多角的にとらえているのでした。
 ありふれた日常生活を通して、推理を組み立てていく手法には無理がないどころか、うへーっ、こういうように見るべきなんだと、ついつい居住まいを正されたほどでした。
 たとえば、こんなくだりがあります。
 よく見ていてごらん。右から左に、つまり人形町から浜町に向かって歩いていくサラリーマンには、上着を脱いでいる人が多い。逆に、左から右に歩いて行く人は、きちんと上着を着ている。
 今まで会社の外にいた人、いわゆる外回りの仕事をしている人たち。営業とかサービスをしていた人たちは、ワイシャツ姿で歩いている。反対に、左から右に歩いて行くのは、今まで会社にいた人たち。冷房の利いた部屋にいたから、外回りの人たちみたいに汗だくになっておらず、むしろ身体が少し冷えすぎているくらいだ。それで、上着をきちんときている。比較的年輩の人が多い。もう外回りしなくていい、会社での地位の高い人たちだ。
 推理小説ですから、これ以上のなぞ解きは禁物です。2009年の最後を飾るにふさわしいミステリー本だったことは間違いありません。
 この本を読んで、2009年に読んだ単行本は570冊を超えました。こんなにたくさんの本を読めて、私は幸せです。その一端を分かち合いたくて、書いています。

(2009年12月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー