弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年12月22日

奄美の「借金解決」係長

社会

著者 禧久 孝一、 出版 光文社

 先日、北九州で開かれた全国クレサラ被害者交流集会のとき初めて本人にお会いし、少しだけ話させていただきました。実直・頑固な信念の男というイメージそっくりの方でした。この本は交流集会の会場で買い、すぐに読んでしまいました。
 実は、私はまだ奄美大島に残念ながら行ったことがありません。一度は行ってみたいと思うのですが、果たせません。ちなみに、石垣島にも屋久島にも行ったことがありません。なんとかして、いずれ行くつもりです。
 著者は、奄美市役所で市民生活係の係長をしています。
 1日に10~20本の電話相談を受け、3~4人の相談者に対応する。
 ケータイは年中無休、24時間体制で稼働している。
 いやはや信じられません。超人的な活動です。身体を壊さないようにしてくださいね。
 多重債務者は社会構造のなかで生まれた被害者である。誰が好き好んでサラ金やヤミ金に足を運ぶか。そうせざるを得ない状況に追い込んだ元凶は、今日の社会構造にある。それなのに、多重債務者は社会を恨むでもなく、悪いのは自分だと思い込んで、10年も20年もコツコツと違法金利による借金の返済を続けている。
 いやあ、この点、まったく同感です。
 妻が夫に内緒で借金をしてしまったとき、「まず、ご主人に相談しなさい」と突き放す弁護士がいる。しかし、それは一番やってはいけないこと。なぜなら、何年ものあいだ、ご主人に借金を隠し続けてきたこと自体が大きな苦痛なのに、「打ち明けなさい」と言われると、さらに新たなプレッシャーを与えることになるから。
 苦しんでいるときに、そんなプレッシャーを与えると、それが自殺の引き金になりかねない。というより、自殺の確率をぐんと高めてしまうことになる。だから、ご主人に打ち明けることを強要しない。本人が内緒にしたいのなら、その希望に沿うようにする。
 実は、私も同じようにしています。もちろん、ご主人に打ち明けることを一応すすめます。それでも内緒にしてほしいと本人が言い張るときには、ファイルに「家族に内緒」と朱書きし、弁護士名での封書は出さず、電話でも弁護士だと名乗らないようにしています。
 奄美では、弁護士が問題を起こして裁判にまでなっています。相談者に対して威圧的であったり、冷淡であってはいけない。冷たく居丈高な弁護士では、怖くて近寄ることができない。人格を全否定するような言い方はやめてほしい。
 大変もっともなことが極力抑えた筆致で説かれています。耳を傾ける必要があります。
 借金整理にあたって、次の三つを約束してもらう。
一つ、ウソをつかない。
二つ、事実を隠さない、
三つ、指示されたことはきちんと実行する。
 この三つさえ守っていれば、借金をすっきり綺麗に整理して、人生の再スタートを切ることができる。
 まさしく、そのとおりだと思います。すんなり読める、いい本です。

 
(2009年11月刊。1238円+税)

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