弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月26日

自民崩壊の300日

社会

著者 読売新聞政治部、 出版 新潮社

 私は戦後ながく続いた自民党政治が消え去ったことを心から喜んでいます。金権腐敗、汚職まみれの大型公共土木工事優先で福祉切り捨て、そして憲法改正とアメリカ追随。こんな自民党政治のイメージに、うんざりしていました。どうして日本人はもっと怒らないのだろうかと不思議でなりませんでした。
 その自民党政治に終止符を打った今回の総選挙は、民主党政権への期待というより、国民の積年の怒りがついに形になってあらわれたものと考えています。
 この本は、自民党政権が崩壊していった300日間をたどっています。別に目新しいことが書かれているわけではありませんが、ともかく、同じ日本人であることにこちらが恥ずかしくなるような人物が日本国の首相でありつづけたこと、そんな政治はやっぱり長続きしないことが改めてよく分かる本です。
 麻生政権の後半は、麻生太郎首相の「盟友」を自称する面々が、次々と麻生のもとを離れていく展開となった。ある者は自滅し、そしてある者は麻生に失望して……。
 麻生が権力の座に近づきはじめたころから、急速に麻生の「側近」然とする取り巻きが増え始めた。もともと自民党内でも弱小派しか率いることのできなかった麻生が、急に人望を集めたわけではない。幸運なめぐり合わせで麻生が首相のイスに座ることができたのは、党内で敵の多かった麻生を見捨てず、支えてきた古くからの友人の存在があったから。しかし、麻生は彼らの助言よりも、にわかに麻生にすり寄って甘言をささやく「盟友」の言葉を信じ、政局判断を誤り、決断の機会を逃していった。麻生は、宰相としての日々を「どす黒い孤独に耐える日々」だと言ったが、麻生を利用することばかり考える「側近」が麻生政権を蝕み、麻生をいよいよ孤立させていった。
 そうなんですよね。私は今回の自民党政権打倒の最大の功労者は、麻生首相その人だと考えています。なぜなら、麻生政権誕生と同時に解散・総選挙が行われていたら、今回のような民主党圧勝という選挙結果になったはずはないからです。麻生首相が、もう少しテコ入れしたら、もう少し支持を回復できると解散を先送りしていってくれたことが、結果として重大な判断の誤りにつながったと思うのです。
 自民党の役割について、加藤紘一元幹事長は、冷戦時代の東アジアで共産勢力の拡張を防ぐ西側の橋頭堡としての役割があったが、冷戦終結とともにその使命は終わったと分析している。
 KY首相。空気が読めない。漢字が読めない。解散も読めない。経済も読めない。国民感情も読めない。
 本当に最低最悪の首相でしたが、政権交代の促進役として偉大な功績があります。なにより、日本国民に投票によって政治が変わることを実感させてくれたことの意義は、特筆すべきだと思います。
 
(2009年10月刊。1400円+税)

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