弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月23日

蘭陵王

中国

著者:田中芳樹、出版社:文藝春秋
 時代は中国の6世紀後半、南北朝のころです。随が中国を統一する少し前のことになります。
 中国の歴史書である『資治通鑑』に「北斉の蘭陵王・長恭(ちょうきょう)は、才たけくして、貌(かんばせ)美しく、常に仮面をつけ、もって敵に対す」とあることをもとにした小説です。
 同じく中国の歴史小説を得意とする宮城谷昌光と似てはいますが、文体が少し異なります。何がどう違うのか、私の貧弱な言葉では言い表しにくいのですが、宮城谷昌光のほうが一日の長があって話の深みが優っている気がします。かといって、著者の本がダメということでは決してありません。よくぞここまで調べあげ、また、想像力をたくましくしたものだと感心しながら読みすすめました。
 「蘭陵王」というのは日本でも広く知られていて、古典的な舞楽として、国立劇場で上演されているとのことです。恥ずかしながら、私は知りませんでした。
 勇壮華麗で人気の高い作品なんだそうです。知っている人には申し訳ありません。
  蘭陵王は実在の人物であり、『アジア歴史事典』にも登場する。「蘭陵王高長恭、中国は北斉の皇族。文襄帝の第4子。容貌は柔和であったが、精神は勇敢で、武成帝、後主のもとで、しばしば戦功をたてた。北周の軍が洛陽を攻囲したとき、大将軍斛律光とともにこれを救い、邙山で激戦し、500騎を率いて2度までも北周軍に突入して、ついに金墉の城壁下に達したが、城上の斉兵は高長恭であることを知らず、彼は甲を脱いで顔を示し、城中に迎え入れられた。こうして周軍は囲みをといて退走したので、北斉の将士らは、蘭陵王入陣楽なるものを作って、その勇武を歌った。
 戦功により世の威望高く、ために後主の嫌疑を受け、ついに毒薬を賜り、没した」
 この本には、皇帝が疑心暗鬼となっていて、武勲大なる功臣を次々に謀殺していく情景が描かれています。きのうまで栄華の席にあった皇族や功臣が、たちまち逆賊として殺害されていったのでした。まことに封建主義、皇帝独裁制というのは怖いものです。
 著者は熊本県生まれで、私より少しだけ年下です。これまでも中国史関連の本をたくさん書いているようですが、私は初めて読むような気がします。
(2009年9月刊。1500円+税)

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