弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月16日

鉄学、137億年の宇宙誌

人間

著者 宮本 英昭・橘 省吾・横山 広美、 出版 岩波書店

 いやあ、鉄って、人間にとってこんなにも必要不可欠のものなんですね。ちっとも知りませんでした。驚きました。
 人間は鉄を十分にとらないと、貧血になる。鉄欠乏性貧血を起こす。血液にふくまれるヘモグロビンは、呼吸で体内に取り入れた酸素を身体の隅々まで運搬するという重要な役割を果たしているが、これが不足すると全身が酸素不足になって、めまいがしたりする。
 このヘモグロビンは鉄を中心とした構造を持っている。
現在、地球で知られているほとんどすべての生物にとって、鉄は不可欠な元素である。地球が特殊な天体である重要なひとつの理由は、地球が十分に大きな鉄の核を内部にもっていることにある。
 宇宙空間は有害な放射線が容赦なく降り注ぐという生命にとって危険きわまりない状況にある。これが地表面に危険なレベルで届かないのは、地球の持っている磁場のおかげである。
 磁場は、地球内部の溶融した鉄の運動により電流が流れるために生じる。つまり、人間は、地球の奥深くにある鉄に守られているのだ。月や金星、そして今の火星は磁場を持たない。いやはや、まったく私は知りませんでしたよ、こんな大切なことを……。
 過去500万年のうちに20回、地球の磁場が逆転した。
 磁場が弱くなると、地球に降り注ぐ高エネルギー粒子の数が増加する。オゾン層を減少させ、地表に降り注ぐ紫外線量を増加させる。
 鉄は、いったいどこから来たのか?
そのほとんどが、地球の誕生する46億年前よりはるか昔に、太陽の10倍以上の大きな恒星の内部でつくられ、その星が死ぬ瞬間の大爆発(超新星爆発)によって、宇宙空間にまき散らされたものである。なんとなんと、そうなんですか……。
 鉄は、すべての元素のなかでもっとも安定した原子核を持つ。鉄よりも重い元素はできない。宇宙全体において、鉄は得意な存在である。
 地球を構成している元素の中で、最大の重量比をもつものは鉄である。地球の重量の3分の1は鉄である。重さで言うと、地球は「鉄の惑星」である。
 現在、地球全体でいうと、毎年10億トン以上の粗鋼が生産されている。全世界の金属生産量の9割以上を占める。鉄は、現代文明の基礎を築いている。
 純粋な鉄は比較的軟らかい。炭素成分を少し加えると、鋼鉄という強固な物質へと変わる。
 今でこそ、動物が呼吸するうえで必須の酸素も、かつてはその高い反応性のため細胞を壊す有害な成分だった。しかし、酸素の高い反応性は、うまく利用すると、有機物からエネルギーを非常に効率的に取り出せる。このことに気がついた原核生物がいた。有害な酸素が、有益な成分に変わった瞬間である。
 多様な原子核の中で、鉄はもっとも安定な原子核を持つ。この性質によって、鉄は校正での元素合成の最終到達地点となること、そのために宇宙で非常に存在度の高い元素になることが決定づけられた。ただ、なぜ鉄がもとも安定な原子核であるのか、現代物理学は解明できていない。
 いやあ、鉄って、まだまだわからないところもある不思議で大切な存在なんですね。面白い本でした。

 熊野古道では中辺道(なかべみち)を少しだけ歩きました。わたらぜ温泉のささゆりに泊まり、翌朝8時20分にバスで出発し、三元茶屋跡から熊野本宮大社までの下りのコース2キロを1時間ほどかけて歩きました。ガイド氏(かたりべ)が同伴して、各所で説明がつきますので、時間がかかったのです。静かな細い山道を歩くのは気持ちの良いものです。
 三軒茶屋というのは、昔はアリの古道というように参詣する民衆がアリの行列のように切れ目なく続いていたということです。なるほど、そのように描かれている絵を見ました。日本人は昔から旅行が大好きだったのですね。
(2009年8月刊。1200円+税)

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