弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月 8日

無人島に生きる十六人

日本史(明治)

著者 須川 邦彦、 出版 新潮文庫

 小学生のころ、『十五少年漂流記』を読みました。この本は、日本版の『十六人おじさん漂流記』です。
 いやはや、明治の日本人の偉大さに、ほとほと感心しながら、一気に読んでしまいました。最後はレストランでランチを食べながら、頁を繰るのがもどかしいほどでした。
 『十五少年漂流記』はフランスのジュール・ヴェルヌによる、実体験を基にした創作です。ところが、このおじさん漂流記のほうは、あくまでも実録なのです。そして、著者が生存者から聞き書きしたものですから、とても読みやすいのです。
 なにより、16人の大人たちが難破して無人島に上陸したあと、どうやって生き延びたか。そこで、どんな工夫をして全員が生き残ったのか、実に分かりやすいのです。最後まで、何年かかろうと生き延びようとしたという執念には感動に心がうち震えてしまいます。
 16人は、無人島で規則正しい生活を送ります。決して生存をあきらめません。仕事は全員が順番にこなします。
 見張りやぐらをつくり上げます。その当番を毎日、交代でします。炊事、たきぎ集め、まき割、魚とり。かめ(海亀)の牧場をつくり、その飼育当番も決めます。海水から塩もつくります。宿舎掃除、洗濯、万年灯(いつでも火ダネは絶やしません)、雑用そして臨時の仕事。近くにみつけた宝島までの往復。よくぞ16人全員が病気せずに生き残ったものです。
 そして、感心することには、この無人島に学校まで開設したのでした。船の運用法、航海法そして、漁業水産、さらには数学と作文までありました。さすがは、わが勤勉なる日本人です。といっても、実は全員が生粋の日本人ではなく、もとはアメリカ人で、日本に帰化した海の男もいました。だから、英語と日本語の授業まであったんです。
 明治31年秋、ハワイの近く、ミッドウェー島の近くで遭難し、翌明治32年12月に日本に全員が帰国できました。
アオウミガメ(正覚坊)の肉は美味しい。それは、海藻を食べているから。アカウミガメの肉はにおいがあって、食用にはならない。魚など、肉食しているから、においがする。
野生のアザラシと仲良くなって、一緒に遊んでいたというのにも驚きます。
 ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが一番いけない。夜の見張り当番は、若い者にはさせられない。月を見ていると、急に心細くなって、懐郷病にとりつかれてしまう。
 無人島で16人の大人が生きのびたのは、次の4つの約束を守ったことによります。
 一つ、島で手にはいるもので暮らしていく。
 二つ、出来ない相談を言わない。
 三つ、規律正しい生活をする。
 四つ、愉快な生活を心がける。
すごいですね。明日、死ぬかもしれないという状況に置かれながら、絶えず笑いを忘れないように心がけたというのです。
 アザラシと友だちになれたのも、そんな約束を実践していたからでしょうね。
 毎日あくせく暮らしているあなた、南の島で一人取り残されたとき、こうやって生き延びられるというのを空想してみるのもいいことなんじゃないですか。

(2008年6月刊。400円+税)

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