弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年10月29日

弁護士のマインド

司法

著者 田中 宏、 出版 弘文堂

 私もよく知っている札幌の熱血弁護士が法科大学院で院生を相手に、弁護士とは何かを熱く語った講義内容を本にしたものです。いやはや、さすがによく勉強しています。感心しました。
 弁護士が知っておくべき法曹倫理が、過去の歴史を踏まえて具体的に語られています。あげられている実例が、すさまじいのです。
 六本木ヒルズに事務所を構えていた国際弁護士は、証券会社に130億円以上の損害をあたえて失踪し、いまもって行方不明だといいます。奈良の弁護士が10億円もの横領で懲役6年4ヶ月の実刑。山梨県弁護士会の元会長は、2億円の横領で懲役6年の実刑。
 事件屋みたいな人物と提携して債務整理に弁護士名義を貸して懲戒処分を受けた弁護士は、60代(68人のうち33人)、70代(11人)、80代(2人)、90代(2人)と高齢者が多い。弁護士経験25年以上が53人もいます。そして、再犯率は高く、半分近くが再犯し、3回も4回も懲戒処分を受けた弁護士が12人もいる。
 うへーっ、実にあきれてしまいます。著者はアメリカのアンビュランス・チェーサーを情けない限りだと非難しています。先日、私の読んだアメリカの弁護士は、いいじゃないですか、それで保険会社の横暴が止められるのであれば、と語っていました。なるほど、それにも一理ありますよね。
 弁護士の報酬については、弁護士会の報酬規定が独占禁止法違反に該当するという指摘を受けたことから廃止され、今や自由契約となっています。そうはいっても、裁判に経験のない一般市民の便宜のため、報酬の目安を示すためのアンケート調査を実施し、その回答を集約して、コメントをつけた簡単なリーフレットを作っています。私は、その作成に8年ほども関わっています。かつては、報酬契約書を取り交わすことは全くありませんでしたが、今では、取り交わさないことが特殊な状況にあります。
 弁護士をめぐる状況について論じるなら、やや観点は異なりますが、弁護士業務妨害も触れてほしかったと思いました。大阪の弁護士だったと思いますが、ちょっとした「ミス」から脅迫されるようになり、その支払いのために横領を重ねていたという事件がありました。横領の原因が「ミス」であり、それをネタに脅しをかけてくる「依頼者」も存在するという現実があります。弁護士の職業が生易しいものではないことを、多くの法科大学院生に知ってほしいと思いました。
 それにしても、400頁ほどの本に、法曹倫理をよくぞコンパクトにまとめていただきました。ありがとうございます。今後ますますのご活躍を祈念します。
 著者は、良い弁護士になるためには、謙虚な人、誠実な人、器の大きい人、そして努力し続けることを心がけることだと強調しています。私も同感です

 対馬に行ってきました。5月に全島を真っ白に染めるというヒトツバタゴは葉を落していました。
 宗家の墓所に参りましたが、お寺の裏山のようなところに階段が一直線に続いています。樹齢1000年という大きな杉の木が3本たっていました。
 武家屋敷跡の石壁が見事でした。町のあちこちに残っています。
 夜は海に漁火が見えました。イカ釣り船の集漁灯です。半月が皓々と輝き、そのすぐ下に金星が見えました。
 壱岐は何度か行きましたが、対馬は初めてでした。ニホンミツバチのハチミツを一瓶(3000円)おみやげに買って帰りました。
 
(2009年10月刊。2800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー