弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年10月24日

縞模様のパジャマの少年

ドイツ

著者 ジョン・ボイン、 出版 岩波書店

 映画を見損なったので、せめて本を読もうと思ったのでした。ナチスがつくったユダヤ人の強制収容所には、いくつかの種類があったようです。選別して殺すだけの絶滅収容所。働かせられる労働者を選別して働かせていた強制労働所です。
 この本は、恐らく絶滅収容所を舞台にしているのでしょうか、実際にはあり得ない、収容所内外の子どもの交流を描いています。収容所の責任者として家族連れで着任してきたナチス親衛隊の高官には、9歳の息子と12歳の娘がいたのです。その9歳の男の子が、友達ほしさに収容所周辺をうろうろしているうちに、縞(しま)模様のパジャマを着た少年と仲良くなってしまうのです。
 実際、収容所の周辺にいた人々との交流が皆無ではなかったようです。でも、子どもが1対1で話し込む状況というのは、いくらなんでもありえなかったのではないでしょうか……。
 しかし、あり得ないことを本の中では可能として、それを通じていろんなことを考えさせるのが作家の腕前です。この本を書いた著者は、なんと1971年にイギリスで生まれています。やはり、想像力が豊かなのです。
 ありえないことを、ありえることとして、ナチス高官の息子が収容所に入れられて死を待つユダヤ人の子どもと交流したらどういう展開になるのか、それを考えさせてくれるのです。やはり、映画そのものを見たかったものだと思ったことでした。
 
(2009年5月刊。1800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー