弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2009年10月16日
そして戦争は終わらない
アメリカ
著者 デクスター・フィルキンス、 出版 NHK出版
アメリカのイラク侵略戦争に従軍したアメリカの若きジャーナリストのレポートです。
表紙の写真がアメリカそのものを描いています。必死の形相です。恐怖で顔が引きつっています。女性兵士ではないかと思うのですが、ともかく若い白人兵士がイラクの町なかで襲撃にあい、小銃を構えながらも恐れおののいている様子がよくとらえられています。
アメリカ兵は既にイラクで5000人近くも亡くなっています。もちろん、イラク人の死者は、それより桁違いに多いことと思います。それにしても、勝ったはずのアメリカ軍、占領軍のアメリカ軍が、毎日毎日いまだに殺されていっているわけです。やはり、このアメリカによるイラク侵略戦争は、かつてのベトナム侵略戦争と同じように、アメリカの大きな間違いだと思わざるを得ません。そんな侵略戦争に日本がアメリカ軍に加担したのを、私は恥ずかしく思います。
オバマ政権がイラクから撤退する方針を打ち出しているのは正しいと思います。ところが、アフガニスタンにはアメリカ兵を増派するというのですから、私にはまるで理解できません。
若いアメリカ兵が次のように語った。
ここは世界でも最悪の場所だと言われているが、それほど悪いわけじゃない。連中は自分たちのために戦っているだけだ。どこにでも内戦はある。アメリカだって内戦はあった。
こっちは撃つだけだ。すると、向こうが反撃してくる。やつらをぶっ殺して家族のもとに帰るか、それとも連中に殺され、さらに多くの人が殺されるか、どちらかだ。撃たないと、オレは家族のもとにも、彼女のもとにも帰れない。ここで生き抜くほうが、よっぽど耐えられないことだ……。
著者は現在のイラクを、精神の病んだ国だといいます。人々はかつて持っていた奔放な明るさを失い、じっと家に閉じこもっている。いつどこで起きるか分からない自爆テロにさらされ、隣人による告発を恐れ、警察をかたる誘拐一味からの電話に怯えながら生きている。母国の治安を守ろうと警察官募集の行列に並べばテロにあい、民主主義を根付かせようと選挙に行こうとすれば家族ともども皆殺しにするぞと脅迫される。身を守るためには、家の中にとじこもっているしかない。太陽の下にいるのは、アメリカ軍か、そうでなければテロリストだけなのだ。
こんなイラクに、アメリカ人ジャーナリストが4年もいて無事だったというのです。奇跡としか言いようがありません。日本人ジャーナリストで、そんな人はいるのでしょうか。
根本的な障壁になっているのが、言葉だ。イラクにいるアメリカ人で、アラビア語の単語を2つ以上知っているのは、兵士でも外交官でも、新聞記者でもほとんどいない。そして、その大多数が通訳さえ同行していない。
多くのイラク人にしてみれば、サウスダコスタから来た19歳の典型的な陸軍伍長は、決してアメリカの善意を運んできた無垢な著者ではなく、むしろ武装した無知な若者という、最悪の組み合わせでしかない。
アメリカがイラクに侵攻したあとの5年間に900人以上の自爆者が出ている。自殺志願者には事欠かない。殉教作戦中に殺された。自爆のことは、このように表現される。
トイレは、とても重要な問題だ。6000人もの海兵隊が歩いて行進するというのは、とんでもないことである。どこか、その辺で用を済ますというわけにはいかない。夜も同じだ。武装勢力には、凄腕の狙撃手がいる。そして、便器は使い物にならない。
バグダッド支局は、要塞化していった。クレーンを使って、厚さ30センチ、高さ6メートルのコンクリート防爆壁を建てた。天辺には、有刺鉄線を張る。武装した警備員を20人雇った。そして、30人、40人へと増やしていった。全員にカラシニコフ銃を買い与え、地下室にあるロッカーにはグレネード弾が置かれた。屋上にはサーチライト、そしてマシンガンがある。
元兵士の警備アドバイザーを日給1000ドル(10万円)で雇った。装甲車を3台購入した。新聞社が記者にかけた生命保険料は、1か月1万4000ドル(140万円)。保険会社は、少なくとも1人は死ぬと推測していることになる。
バグダッドの電力は、1日4時間しかもたない。自家発電できるようにイギリスから600万円かけて発電機を輸入した。
警戒厳重のグリーン・ゾーンにいると、この戦争は負けるという気がしてくる。
いやあ、おそらく、そうでしょうね。アメリカのイラク侵略戦争は間違っています。いかにフセイン大統領がひどい独裁者だったにせよ、アメリカのやったことを正当化できるものではありません。日本が、アメリカの間違いをこれ以上は追従してほしくないと、つくづく思います。
(2009年2月刊。1600円+税)