弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年9月17日

日米同盟の正体

社会

著者 孫崎 享、 出版 講談社現代新書

 外務省の国際情報局長、イラン大使そして、防衛大学校教授。こんな肩書きの人物が日本とアメリカの同盟関係について何を言いたいのかしばし耳を傾けてみましょう。ただし、いつものように断片的に引用しますから、著者の真意を正しく汲み取っているか、いささかの不安もあります。ぜひ本を手にとって読んでみて下さい。
 日本が軍事的役割を果たす「普通の国」にならなければ国際的評価は得られないと説く人がいる。しかし、国際的世論調査を見れば、その議論は正しくない。
 日本が軍事力を行使する国にならなければ国連の安全保障理事会の常任理事国として歓迎されないという議論は、必ずしも広い国際世論を反映したものではない。なるほど、そうですよね…。
自分たちと敵対する国を、できるだけ国際経済の一員にし、日本がその中で尊敬される位置を占めること。実は、これが極めて有効な日本を守る手段なのである。たとえば、北朝鮮を早期に国際社会の一員とするとともに、彼らが軍事的行動によって失うものを作っていくことが安全保障につながる。私も、この指摘にまったく同感です。
 抑止力は軍事に限らない。近隣諸国からの核攻撃に対する抑止は非軍事の分野にある。実のところ、近隣の核保有国が日本に核攻撃をしようとしたとき、確実な軍事的対抗措置はない。それより、日本を攻撃したら、生活ができなくなるという経済関係を築き、相手国の企業や労働者がこのことを自覚していると、日本を攻撃しようとする国家指導部を揺さぶり、抑止力を発揮するのである。これはアメリカの国防部も、実は、同じ見解である。
 いやあ、ホント、本当にそうですよね。
田母神発言の前にも、自衛隊幹部は敵基地攻撃を高言していたのですね。2007年2月15日付けの「隊友」紙に空爆長の論文が掲載されているそうです。
 しかし、著者は日本には敵基地攻撃能力はないと断言しています。日本の国防は日本だけで一本立ちできないシステムになっている。敵基地攻撃論は先制攻撃論であるが、先制攻撃によって相手国の9割程度の攻撃能力を破壊する必要がある。しかし、それは日本には実行不可能である。しかも、先制攻撃したあとの展開についてもまったく能力を持っていない日本が先制攻撃能力だけを持とうとするのは極めて危険なことである。要するに、ミサイル防衛なるものは、実のところ、有効に機能することを期待することはできない。日本は実質的に無力であることを自覚すべきである。
 アメリカはイラク戦争で泥沼に入っている。アメリカ兵の死者は2009年2月時点で、4245人となった。しかも、このほか4万5000人の除隊者を出している。また、帰国したアメリカ兵の20%が戦場でのストレスで精神障害を起こしている。
 イラク戦争にかけているアメリカの戦争負担は毎月120億ドル、死傷兵に対する補償金などを含めると、合計して3兆ドルもアメリカは負担している。とてつもない巨額の負担である。これがアメリカ経済を直撃している。
 日本とアメリカの関係を見直し、今こそ対等な立場にものにすべきだと確信しました。いえ、アメリカとケンカしろと言うんじゃありません。日本もヨーロッパなみに、アメリカと対等な独立国としての地位を確立するよう、交渉すべきだというだけです。これって過激な主張でしょうか…?

(2009年3月刊。760円+税)

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