弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年9月16日

医療崩壊を超えて

社会

著者 田川 大介、 出版 ミネルヴァ書房

 西日本新聞が医療現場の状況をルポしていた記事をまとめた本です。日本もヨーロッパ並みに国民の医療費負担をゼロに早くするべきです。ところが、保険会社の強い圧力に負けて、なかなか国民皆保険が実現できないアメリカでは、金持ちは十分な医療を受けられるけれど、貧乏人は満足に医療を受けられないまま放置されている事態が進行しています。ひどいものです。そして日本がそれを後追いしています。高速道路の料金をタダにするとか1000円にするとか言う前に、やるべきことがあるでしょう。国民を大切にしない政治。保険会社、つまり営利のことしか考えない企業と政治家がのさばっているのが日本の実態でもあります。
 お金があって、力のある人にとって、政治なんて必要ないのですよね。政治は、お金のない、弱者の生活と権利のためにこそ必要なのです。今度の選挙で、医療や福祉が正面から争点とならなかったこと、マスコミがきちんと取り上げなかったことに、私は悲しみと怒りを覚えます。
 日本の医師は28万人足らず。弁護士は、その1割、2万7千人ほどでしょうか。日本の医師は、人口1000人あたり2人しかいない。OECD加盟国の平均は3人。先進国では最低レベル。日本の医師は足りないのですね
 医師国家試験の合格者の3分の1は女性である。
 政府は、全国に25万床ある医療療養病床を15万床に減らし、介護療養病床の13万床は全廃する方針を打ち出した。医療・介護を合わせると、2013年3月までに36万床から15万床へ激減する。うひょう。なんと冷たい、むごい政策でしょうか。老人は早く死ねと言わんばかりの政府の方針です。黙ってなんかいられません。
 医師不足は医局レベルではなく、大学病院自体が直面している。うむむ、なんだか信じられない事態ですよね。それで、日本医師会はよく黙っていますね。自民党政府の応援団として、発言力をなくしてしまったのでしょうか……悲しいことです。
 産科医は、2008年までの10年間で1割以上も減って、出産を休止した医療機関は全国で1000ヶ所以上。
 がん末期の患者の入るホスピス(緩和ケア病棟)に入ると、入院料が103万7800円。保険を使っても自己負担が101万1340円。うへーっ、これっておかしくありませんか。医療を保障するのが国の負担でしょう。やっぱり医療費はタダにすべきです。
 総選挙のとき、民主党は高速道路の利用料をタダにすると公約しました。しかし、それって1兆3千億円もかかることだそうです。そんなお金があるのなら、共産党の言うように老人と子どもの医療費こそ無料にすべきですよ。医療と福祉を粗末に扱う政治は、つまりは国民の生命と健康、そして権利を大切にしないということでもあります。

 月曜日(14日)日比谷公園のなかを歩きました。彼岸花の群生があり、燃え立つような紅い花を咲かせつつありました。曼珠沙華とも言いますが、地上から天に向かって打ち上げた花火のような勢いを感じさせる花です。秋の訪れを実感しました。
 公園では、ツクツク法師が最後の鳴き声を響かせていました。こちらは夏の終わりを感じさせます。
 タクシーに乗ると、中年の運転手さんから、ぜひ景気回復してほしいものですねと、しきりに話しかけられました。民主党への政権交代への期待と不安の混じった天の声と受け止めました。
 
(2009年6月刊。2000円+税)

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