弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2009年9月 9日
社宅街
社会
著者 社宅研究会、 出版 学芸出版社
私自身は社宅に住んだという記憶はありません。でも、生まれたのは少し高台にある鳥塚社宅というところでした。そこが、三井の下級職員社宅だったのです。三井の社宅は階級による格差があって、それは見かけで分かります。炭鉱長屋は一目瞭然。下級職員社宅と幹部職員社宅では、塀から違います。
徴兵されて中国大陸に渡り、終戦後しばらく中国で八路軍とともに行動していた叔父に、故郷の無事を知らせる手紙に社宅で撮った幼い私を含めた一家全員の写真が同封されていました。なつかしい写真です。
小学校にあがる前後からは、炭鉱社宅に出入りしていました。父が脱サラして小売酒屋を始めたので、私も酒やビールを配達し、また集金していたのです。
社宅に入ると、まさに子どもがうじゃうじゃといました。広場ではメンコ(パチ)が流行っていました。子どもたちは、ここ、あそこで異年齢を含めて群れをなして行動していましたから、かえっていじめは少なかったように思います。
この本は、そんななつかしい社宅の実情を、日本全国駆け巡って明らかにしています。
新居浜の山田社宅が登場します。ここには、兄一家が生活していましたので、私も、弁護士になりたての頃ですが、出かけたことがあります。今も、かなり残っているということです。福岡県内にたくさんあった炭鉱社宅も残しておけばよかったと思います。
社宅は、日本の文化の一つだったと、たしかに思います。悲惨なことばかりではなく、相互助け合いの場でもありました。
社宅街とは、企業が所有する福利施設により構成された地域とする。たしかに、劇場もあったりしたのです。共同便所はともかく、大きな共同風呂がありました。今の生協のような売店がありました。炭鉱では売勘場(ばいかんば)と言います。そこでは、給料引きになる金券(きんけん)が通用していました。
社宅には監視員がいて、閉鎖社会でもありましたが、労働運動の拠点、その単位にもなったのです。人々の交流は密でした。
職員社宅と炭鉱長屋とは、画然とした区別がありました。差別と言ってよいでしょう。だから、鉱員も教育には熱心でした。教育にお金をかけて大学に行かせたら、よい社宅に住めるわけです。
近代化日本を底辺で支えたのは、この社宅群だったのではないでしょうか。
いい本です。画期的な労作だと思いました。
コモはイタリア北部にある小さな都市です。コモ湖に面していますが、市内の中心部には、狭い路地が縦横に走っており、そこにブティックがあり、観光客がアイスクリームをなめなめ、そぞろ歩きしています。ですから、コモの街を楽しむためには、バスの走る大通りから、一歩、路地へはいりこむ必要があります。
大勢の老若男女、そして子ども連れが路地をぞろぞろ歩いていますので、ちっとも危ないこともありません。もっとも、私のすぐ前を、若い警察官2人が歩いていきました。彼らは、やがてブティックのなかへ入っていきました。
翌日は、早朝に出発する予定でしたから、6時に夕食をスタートさせようと思って適当なレストランを物色するのですが、時間が早すぎます。ようやくテーブルクロスをかけたりして、セッティングをはじめる状況です。仕方ありません。路地をふたまわりして、なんとか先客のいるレストランに入り込みました。広場に面した、というより、広場の一角にテーブルをならべたレストランです。大きな陽覆いがあります。そうなんです。夕方6時なんて、まだ日本では午後4時ごろの感覚です。広場を眺めながら、注文を取りに来てくれるのを待ちますが、おじさん一人でやっているため、なかなか注文取りに来てくれません。テーブルは次第に埋まってきました。メニュー表の前に立ち止まった人を見かけると、おじさんがにこやかに声をかけるのです。客の呼び込みが先決なのでした。
ようやく注文しても、料理が運ばれるまで時間がたっぷりかかりました。私の方も急ぐ用事はありませんので、赤ワインを飲みながら広場を行きかう人々を眺めます。中高生のような思春期の青年の姿はなぜか見かけません。家族連れの子どもは小学生くらいまでです。思春期の若者たちが集う場所は、おそらく別なのでしょう。ですから、広場は静かな大人の雰囲気です。
隣にすわった老夫婦は、注文を取りに来るのがあまりに遅いと思ったのか、途中で席を立って別のレストランへ移っていきました。
犬を連れた人も多く、小さな犬を胸に抱きかかえた若い女性が、連れの女性と一緒にテーブルに座りました。犬がうるさく鳴いたり吠えたりすることもありません。
ようやく料理が運ばれてきました。
(2009年5月刊。3000円+税)
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