弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年9月 1日

幻想の道州制

社会

著者 加茂 利男・岡田 知弘 ほか、 出版 自治体研究社

 道州制の積極的導入によって九州経済は12%成長する。
 これは、九州財界のシンクタンクである九州経済調査協会のシミュレーションである。
 日本経団連の御手洗会長は、道州制の最大のメリットを次のように強調している。
 府県の廃止や国の出先機関の統廃合によって数兆円に及ぶ財源が浮き、これを国際空港・港湾・高速道路建設などの大規模プロジェクトの建設資金や、多国籍企業誘致の補助金にまわすことができる。
 ええーっ、これって、私たち国民にとって本当にメリットのあることでしょうか……?
 国家公務員のうち、6万6000人を地方に移管し、地方公務員3万2800人をリストラして民間に転出させ、総体として公務員を激減させる。そして、都道府県議会議員の数も半分ないし3分の1にまで減らす。
 道州制になると、一つの州は平均1000万人という巨大なものとなる。そこに「州民」という感覚が育つとは思えない。
そうですよね。九州はひとつというのは、単なる掛声みたいなものですから……。
 市町村合併によって役場がなくなった結果、その役場周辺の地域経済は一挙に衰退した。飲食店は閉店が相次ぎ、土木・建設業者も仕事がなくなり、次々に倒産していった。県庁がなくなることによって、より拡大した経済衰退が再現されるだろう。
 まことにそのとおりだと思います。
 道州制は、財界の古くからの悲願だった。実は、古く戦前の昭和2年(1927年)に最初の提案がなされている。地方自治が確立する前からのものだったとは知りませんでした。ただし、現在でも、東京をどうするか、中部を北陸と東海に二分するか、四国・中国はまとめるのか二分するか、まだ結論が出ていないところもある。
 平成の大合併の結果、1999年3月に3232市町村だったのが、2009年2月に1773市町村になった。町村だけで言うと、2562が998にまで減った。これをさらに、700~1000自治体にまで減らそうというのです。むちゃくちゃです。ところが、合併に反対すると守旧派みたいなレッテル貼りがされるのです。大きいことはいいことじゃないかというのです。でも、それは間違いだと思います。地方自治は身近だからこそ意味があるのです。
 知事会と違って、全国町村会は、道州制に強く反対していますが、私も同じ意見です。
 行政の距離が遠くなって、行政サービスが低下するというのが反対の理由です。
 国民健康保険、生活保護、福祉施設、保健所、児童相談所、教育、消費者行政、どれもこれも、地域密着型でこそ意味があるものばかりではありませんか。
 官僚バッシング(たたき)、公務員無用論、地方議員多すぎ論、私はいずれにも組みしません。前に紹介しましたが、北欧では福祉現場を担っているのは公務員です。身分保障がはっきりしているから、介護も医療も安心・安定しているのです。そこでは公務員が多すぎるという不満は出ていません。だって、自分の老後が安心できる体制が確立しているわけなんですから……。
 道州制論議のまやかしに乗せられないようにしましょう。
 わずか134頁の薄いブックレットですが、とても貴重な内容です。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。

 
(2009年2月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー