弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2009年8月26日
どんとこい、貧困!
社会
著者 湯浅 誠、 出版 理論社YA新書
マンガ入りで、難しいことを分かりやすく、優しい言葉で解説していますので、頭の中にすうーっと入ってきます。そして、たくさんの経験に裏打ちされていますので、よくよく分かります。うん、うん、そうだ、そうなんだよね。しきりにうなずきながら一心に読み進めて行きました。
貧困とは、溜め(ため)がないこと。つまり、単にお金がないだけじゃなく、頼れる人間関係や、「やれるさ」という前向きな気持ちを持ちにくい状態を指す。逆に言うと、たとえお金がなくて「貧乏」でも、周囲に励ましてくれる人たちがいて、自分でも「がんばろう」と思えるなら、それは「貧困」じゃない。それが、貧困と貧乏の違いだ。
必要なことは、「甘えるな」と突き放すのではなく、「世の中、捨てたもんじゃない。誰もが、あなたを見捨ててるわけじゃない」ということを、口先だけでなく、ちゃんと形で示すことだ。
死ぬ気になれば、なんだって出来る。それは、そうかもしれない。しかし、その結果、不幸な人たちが増えて、社会としても不幸になるのだとしたら、いったい何のためにそんなことをしなくてはいけないのか?ふむふむ、なるほど、そうですよね。
社会は人間でつくられている。その人間をつぶしていって、社会が良くなるわけがない。お金のために人間らしい生活を放り出すという本末転倒のやり方・考え方が、まず第一の間違い。お金をかけないためといって、いろんな費用を削ってきて、結果的に余計にお金のかかる事態を生み出している。これが第二の間違い。つまり、二重の間違いを犯している。
自分が苦しければ苦しいほど、他人はずるいという気持ちが強まる傾向がある。そして、あまりにも違い過ぎる人には目がいかず、自分に近いところでちょこっとだけずるしているように見える人のことばかり気にかける。そうなんですよね。
貧困状態に放置された人の選択肢は、次の5つしかない。
①家族に頼る
②自殺する
③罪を犯す
④ホームレス状態になる
⑤NOと言えない労働者になる
自己責任論は、溜めがなく、がんばれなくなってしまった人たちを、さらに痛めつけるためにつかわれる。まったく同感です。
現代日本社会は、滑り台社会だ。少なくない人たちが排除されてしまっていて、排除されると簡単に生活が成り立たなくなる。生きていけなくなる。そんな社会だ
そうですよね。ニッサンの10人ばかりの取締役は、平均2億4000万円もの年俸をもらっています。そんな人から見たら、ホームレス状態の人はまさにがんばりが足りないとしか見えないことでしょう。でも、自己肯定感をまったく持てずに大きくなってしまった人、そして、手に何の技術も身につけていない人に、どうやってがんばれというのでしょうか……。
今の日本社会は、つくづく弱いもの、高齢者、障害者に冷たいと思います。昔の日本では決してそうではありませんでした。
今度の総選挙で、このことが重大な争点として浮かび上がっていないのが、私には大変残念でなりません。
ポストバスはキアヴェンナを14時12分に出発しました。平地を走ります。左側に阿蘇の外輪山のように急峻にそそり立つ山が連なっています。
やがて大きな湖が左手に見えてきました。バスの運転手がアナウンスしています。どうやら、コモ湖と言っているようです。湖には小さなヨットがたくさん浮かんでいます。湖面をセーリングで疾走する人もいます。モーターボートも走っていますので、ぶつからないかつい心配してしまいました。
ボートに乗って、のんびり釣り糸を垂らしているおじさんの姿もみかけます。
最終目的地はコモなのですが、コモ湖は人の形をした、すごく細長い湖です。左側に湖が見え隠れしながら、平坦な市街地やトウモロコシ畑をバスは走っています。
バスが突然、大きなラッパ音を出します。どうしたんだろうと思うと、バスの左をオートバイが3台、走り抜けて前方に出て行きました。危ないぞ、と警告したようです。
町の中を走り、山の方にのぼり、ルガーノを目指します。再びコモ湖のそばを走ります。狭い道です。バスはラッパをときどき大きく鳴らして走りますが、いよいよ離合するのが難しくなりました。反対方向に車が渋滞しています。よくぞこんな狭い道を利号して進めるものだと感心します。逆方向から走ってくる車は、バックミラーを道路沿いの塀に当てたりしています。それでも車体がこすりあわないのが不思議です。
15分以上もノロノロ運転して進みます。ところが、スイス領内に入ると、とたんに道は広くなりました。片側一車線はきちんと確保されていますので、すいすいバスは進みます。
高台にあるルガーノ駅に着いたのは16時30分。16時10分到着の予定でしたから、20分遅れです。湖畔道路で大渋滞だったせいです。
ルガーノ駅にあるカフェに入って、キールロワイヤルを飲んで一息つきました。やれやれです。4時間のポストバスを乗り切って、少しばかり自信が付きました。
(2009年6月刊。1300円+税)