弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月13日

ダチョウ力

生き物

著者 塚本 康浩、 出版 朝日新聞出版

 ええっ、ホントなの…!思わず、そう叫びたくなることばかり書かれた本です。これじゃあ、ダチョウって、まるで天才、人類の救世主じゃん…、と、つい思ってしまいました。
 身長は2.5メートル超。巨体から振り下ろすキック力のすごさ。時速60キロを超える駿足。年間100個も卵を産む高い生殖能力。60年も生きる生命力。すごーい……。
 鳥の中で世界一大きいのは、ダチョウだ。ところが、ダチョウの脳はネコなみに小さく、ネズミのように脳のしわがない。体重100キロを超す巨体でありながら、脳みそは300グラム。人間の脳の5分の1しかない。ええーっ。
 ダチョウは集団行動をする。群れをなして行動する。軍隊行進のように足並みをそろえて走り出す。しかし、ダチョウの群れにリーダーはいない。一羽が動き出すのも、危険を知らせて仲間を守るというような高尚なものではない。何も考えていない一羽が何かのきまぐれで走りだし、それにつられて周囲のダチョウも走り出すというだけ。それぞれのダチョウが勝手に動いて、勝手に群れが振り回されて、右往左往しているだけ。いやはや……。
 ダチョウのオスは、メスの前で求愛ダンスをする。くちばしが真っ赤になり、長い首をくねらせながら、羽を大きく広げて踊り出す。うむむ、ちょっと気味悪いかな……。
 ダチョウには声がない。だから、群れがあっても物静かな集団だ。
 ダチョウを飼うときには、主食はもやしを1日4キロ与える。オスはもやしとおからのみ。メスは卵を産むため、殻の原料になるかきがらを1.5キロ、おから、大豆のくず、ペレットを混ぜる。ダチョウの腸は直径10センチもあり、長さも2メートルと非常に長い。この腸管で消化吸収に40時間もかける。主食のもやしは水分と食物繊維がほとんど。ダチョウは食物繊維をムダなく消化している。ダチョウの糞に臭いが少ないのは、腸内環境がいいから。
 食中毒に対応させたダチョウ抗体を口から摂取すると、悪玉といわれる大腸菌などの腸内細菌を減らし、腸内環境を整える働きがある。
 ダチョウは、乾燥してホコリっぽいサバンナが原産だから、砂が目に入らないように、まつげがびっくりするほど長い。成鳥になると、警戒心が強く、何年付き合っても人になつかない。
 ダチョウは脱走しても単独行動が苦手なので、放っておくと習性で必ず仲間の元に戻る。逆に、追い詰めれば追い詰めるほど、警戒して凶暴になり、かえって危険だ。
 ダチョウの卵は、机の角にぶつけて割ることができない。殻は陶器のように硬くて分厚い。
 2005年に日本全国に1万羽のダチョウがいた。それが3年で5000羽に減った。ダチョウは飼育に大変だし、お金にならないから。ダチョウは、ビジネスとしてはまったく成り立たなかった。ダチョウは人間の女性は襲わない。中肉中背の男性をライバルと見て襲う。
 ダチョウは1個の卵から4グラムの抗体がとれる。ダチョウマスクに使うとしたら、卵1個から8万枚のマスクが作れるうえ、品質の均一性もある。
 ダチョウ抗体マスクは、新型インフルエンザを食い止めることが出来る。ダチョウ抗体マスクの表面に塗っておくと、ウィルスが侵入しようとして攻撃をしかけてきたとき、ウィルスの増殖に関わる突起部分に抗体がカギとカギ穴のようにパカッとはまり、マスクの内側にまで侵入してこようとするウィルスの動きを止めてしまう。
 ダチョウは簡単には死なない。ダチョウの傷の治り方は、並はずれて早い。ダチョウの傷の治りが早いのは、傷口の組織の細胞の歩き方が早く、傷口がふさがりやすいから。アトピー性皮膚炎、ひいてはガンの治療薬としても有望なようです。
 うへーっ、こんなお馬鹿なダチョウがこれほど人間の役に立つ動物だなんて、信じられませんね。
 それにしても命がけでダチョウ飼育に挑戦した学者と学生の皆さん、お疲れ様でした。ありがとうございます。
 
(2009年3月刊。1300円+税)

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