弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月12日

タカの巣とり

生き物

著者 猪崎 隆、 出版 鉱脈社

 楽しく読める童話のような話の本です。山里育ちではない私でも、なんだか身近なものとして想像できる少年時代のなつかしい話でした。
 いまでは、宮崎でも、このような山里の体験をしている少年は少ないのではありませんか。実にうらやましい少年時代の思い出です。ですから、サブタイトルに「我が生涯の最良の日々」とあるのも、素直に、そうだろうなとうなずけます。
 というのも、あのサシバをヒナを巣から獲って育てて、野に戻したという貴重な経験が淡々と語られているからです。すごいですよね。おかしなことに、タカと間違ってフクロウの子を巣から奪って育てようとした話も紹介されています。
 そうはいっても、成鳥にまで育てる苦労は大変なものですね。毎朝、早くから田んぼなどに出て、カエルだけでなく、カナヘビまでとってきて、餌として与えるのです。
 私も、子どものころはザリガニ釣りに夢中でした。ですから、カエルを捕まえると、片足を持って地面に思い切りたたきつけ、両手でカエルの両足を引き裂き、ザリガニ釣りのエサにすることに何の抵抗もありませんでした。今は、とてもそんなことはできません。子どもって、本当に残酷です。
 タカ(サシバ)の子を巣から奪うにしても、あまりに早すぎると、人間の手で育てるのは難しい。卵の様子を見て、いつごろにヒナがかえるか判断する。これもすごいですね。
 卵の汚れ具合で、だいたいの産卵時期を予想できる。産みたての卵は真っ白だ。日が経つにつれて茶色っぽくよごれていく。それで、ヒナがかえる日を想定する。なーるほど、ですね。そして、ヒナがかえっても、すぐには奪ってはいけないのです。
 カラスは、人の目につく場所でも大木なら巣をつくる。しかし、サシバは木の大きさよりも、まず場所を選ぶ。人の近寄らない、見晴らしのよくきく山腹の急斜面を選ぶ。
 サシバの喉には、子どもがいたずら書きでもしたような、一本の黒いタテの線があり、こっけいな感がする。この千から、サシバの名前がついた。
 そして、サシバを育て上げ、ついに野に放すまでの日々が描かれています。
 著者は、よき父と母をもったものだと感心しながら読みました。
 我が家の庭にも小鳥たちはやってきますが、さすがにタカは来ません。私と同世代の著者の少年時代を描いた、いい本でした。
 
(2009年5月刊。1000円+税)

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