弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年7月11日

法律相談のための中国語ノート

司法

著者 宇都宮 英人、 出版 林田印刷

 これはすごい。心底、そう思いました。著者は私と同世代、福岡市内で活躍しているベテラン弁護士です。京大空手部で主将をつとめていた猛者だなんてとても信じられない優男(やさおとこ)です。でも、今でも日の里団地で子どもたちを中心とした空手サークルを主宰しているのです。いつぞや、結婚式で空手の型を演じてくれましたが、さすがに見事に決まっていました。身体がぶれないのです。
 そんな著者は、これまた見かけによらない語学の天才なのです。以前、一緒に中国領事館を訪問したことがありますが、そのとき中国語を苦もなく話をしているのを、私など呆気にとられて眺めていました。
 その著者が、今度は中国人が日本で法律相談をするとき、どんなことを訊いてくるのか、それにどう回答したらいいのか、例文をあげて中国語表現を併記した本を作ったのです。まことに実践的な本です。たとえば次のような例文が紹介されています。
 Q,離婚したら在留資格はどうなりますか。日本にそのまま住み続けることができますか。
 A,離婚したら、配偶者という在留資格を失います。ですが、子の親権を取得して一緒に生活していたら、定住者の在留資格を取得できます。
 A,中国人の夫婦であっても、日本の裁判所に離婚訴訟を起こすことができます。ただし、裁判所は、離婚の成立や効果について、中国の法律によって判断を下します。
 著者は、弁護士活動の中の得意分野の一つとして、高齢者・障がい者問題も扱っていますので、その分野の問答もあります。
 たとえば、「合理的配慮をしないことも差別である」という文章は、実は、中国語表現では、「合理的な便利さの提供を拒絶する」となるといいます。これは視点の違いから来ているのではないかと著者は指摘しています。なるほど、と改めて感心してしまいました。
 私も、外国人と結婚した夫婦の破綻後の子どもの親権などをめぐる相談を受けることがあります。この本は、それが中国人だったらどのように言ったらよいのか、分かりやすい例文と中国語が併記されていますので、すぐに使える実践的な手引書です。
 福岡を拠点として、中国語の同時通訳者として活躍中の張愛氏が監修していますので、一段と安心して使える本になっています。ぜひ、みなさん手にとって見てください。なお、この本は、単行本としては著者の3冊目となります。
 
(2009年6月刊。1260円+税)

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