弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年6月 9日

平和的生存権と生存権がつながる日

司法

著者 毛利 正道、 出版 合同出版

 著者は私と同世代の長野の弁護士です。平和運動に挺身し、ブログなどでも積極的に情報を発信しています。そんな著者の熱意にこたえたいと思って、この本を紹介します。
 2008年4月17日。名古屋高等裁判所が自衛隊のイラク派兵を憲法違反だと断罪したとき、その法廷に著者は代理人席ではなく、当事者としていたのです。さぞかし感動・感激の一瞬だったろうと思います。
 名古屋高裁判決の画期的な意義が、著者自身の言葉で実に分かりやすく語られています。著者の父は寺の住職でしたが、応召して中国戦線に軍曹として従軍しました。しかし、帰国してからは「何人もの人を死なせてきた」というくらいで、ほとんど戦争の実像を語らなかったようです。それだけ重い荷物だったのでしょう。
 いま、子どもたちが18歳になると、自衛隊への入隊を勧誘するハガキがどっと送られてくる。就職難ですから、自衛隊にでも入ろうかと思う子どもも多いようです。
 一般の自衛隊員の自殺率は38.6(10万人あたりの自殺者数)であり、イラク帰還自衛隊員の自殺率は、その2.2倍となっている。自衛隊員の自殺率は、男性公務員の1.3倍、アメリカ兵の3.1倍である。
 アメリカでは自殺率は意外に低いが、実数で見ると年間3万人なので、日本と同じ自殺者数となっている。ちなみに、アメリカには肥満が原因による死者が年間40万人もいる。アメリカで肥満は貧困の象徴なのである。
 名古屋高裁判決は次のような憲法判断を示しました。
 現在、イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。そうなんです。まったく、そのとおりです。そして、原告になった人々について、次のように温かい目で見ています。
 そこに込められた切実な思いは、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれているということができ、決して間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨、不快感または挫折感等にすぎないなどと評価されるべきものではない。
 著者は、この判決の価値として、立法行政府の重要施策に正面から司法判断を加えたことにあるとしていますが、まったく同感です。これまで三権分立という建前が、ほとんど生かされることのない司法の消極的な姿勢は、なんのために司法があるのかという疑問を広く抱かせてきましたが、名古屋高裁判決は、それを大きく打ち破ったのです。
 そして、この判断は、単なる「傍論」だとして軽んじていけないことは言うまでもありません。当時の福田康夫首相の談話は、根本的に間違っています。

 クレジット・サラ金被害者の九州ブロック交流集会が長崎でありましたので出かけてきました。この集会は、年に一回、「しっかり学び、元気に生きよう」をモットーとして、九州各県をまわりながら開かれていますが、今年で22回目です。初めのころは50人ほどのこじんまりした集会でしたが、いまでは300人もの人が参加する大集会となっています。長崎氏の田上市長が来賓挨拶してくれました。
 長崎の原弁護士は、これまでの2回の長崎集会では現地実行委員会の中心人物としてになってきてくれましたが、今回は弁護士会長として来賓挨拶をしました。
 パネルディスカッションのなかで、五島市の消費相談の課長さんたちのDVDが紹介され、女装までしての寸劇が演じられました。その熱演ぶりは大受けでした。
 懇親会のとき、久しぶりに堀江ひとみさんにお会いしました。前の長崎集会のときには、ういういしい市会議員としての参加でしたが、今回はたくましさを感じる堂々たる県会議員としての参加です。その活躍ぶりは新聞でもよく拝見していました。美人のほまれ高い堀江さんに再会できたうれしさから、思わず2度も握手を求めてしまいました。
 
(2009年3月刊。1500円+税)

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