弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月28日

さよなら紛争

社会

著者 伊勢崎 賢治、 出版 河出書房新社

 この本を読むと、日本の平和憲法こそ、今の日本が世界に誇りうる最大の宝物だということがよくよく分かります。なにしろ、世界の紛争最前線をくぐり抜けてきた人の体験を踏まえての提言ですから、ずっしりと腹にくるほどの重みがあります。
 日本の憲法は、欧米諸国でかなり研究されている。これが世界平和の鍵だという意識で、まじめに研究している人がいる。だから、これを広告戦略として打ち出していけば、もっと大きなムーブメントに成長していくはずだ。ところが、日本国内では、なんと平和憲法(9条)を捨てようという方向に動いている。そうなんです。なんという愚かなことでしょうか。
 日本がテロリストからまだ攻撃されていないのは、憲法9条があるから。日本は中立である。戦争はしない。そう言いきっている国の人間を警戒する理由は何もない。それは、ソニーとかホンダ、ニッサンというような日本製品への信頼と重なり合ってできている信頼感なのだ。なるほど、なるほど、まったくそのとおりですよね。
著者は建築家を表して早稲田大学の建築学科に進学しました。しかし、そこで失望して、海外へ転身したのです。インドで住民組織のリーダーとなったらインド政府からマークされ、国外退去命令を受けてしまいます。
 そして、日本に帰って、国際協力NGOに就職し、派遣された先がアフリカのシエラレオネでした。ここは世界最貧国でありながら、激しい内戦のまっただなか。そこでは少年兵が最も残酷な蛮行を働いていました。司令官も15歳の少年。勇敢に戦えば、15歳でも司令官になって、大人を指揮することになる。面白半分で人を殺し、残酷さを競い合う。始末に負えない。
 4年間、シエラレオネでがんばったあと、著者は次に東ティモールに派遣され、県知事に任命されます。その指揮下に、1500人の国連平和組織軍がいて、平和維持のために4年間がんばったのです。すごいですね。
 そして、さらに元いたシエラレオネに再び派遣されます。そこでは、アメリカ主導によって「平和」がもたらされた。アメリカは、さんざん人々を虐殺してきたRUFを免罪し、そのリーダーを副大統領に迎え入れた。
 著者は、そのシエラレオネで武装解除にあたります。もちろん、まったくの丸腰です。
 よくぞこんなに勇気ある日本人がいたものです。そして、その日本人が日本国憲法9条の大切さをとくとくと説いているのです。じっくり静かに胸に手を当てながら味わうべき言葉です。
紛争が絶えない世界だからこそ、武器を捨てようと日本は呼び掛けるべきなのだ。それは、決して「平和ボケ」ではなく、真に勇気のある言葉なのである。
 素晴らしい本です。なんだか、臆病な私まで勇気が湧いてきた気がしました。
 
(2009年4月刊。1200円+税)

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