弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月13日

「戦地」派遣

著者 半田 滋、 出版 岩波新書

 自衛隊の海外活動はおろか、国内での活動でさえ、日本人は知らない。実にそのとおりです。その莫大な予算規模に反比例して、毎日のニュースには、まったく登場してきません。
 自衛隊は、ソ連と戦うことを想定した重厚長大な訓練を自讃しながら、もっぱらしているのは、軽妙な市街地戦闘訓練である。演習場への移動費を少なくして簡単にできるからだ。予算節約のためだというのです。笑わせます。凍った笑いです。
 歴代の日本政府は、武力行使や集団的自衛権の行使を禁じた憲法9条に反するものを、適当な理屈をつけては自衛隊を海外に送り出してきた。政府与党にとっては、自衛隊の海外派遣そのものが目的だから、法律と活動のズレを気にする人はいない。
 自衛隊の海外活動は、でたらめなシビリアンコントロールのもとに行われ、事実上、無法状態に近い。それでも、さらなる海外派遣を求める日本の姿は、正常な国家といえるだろうか。ホント、ホント、まさにそのとおりです。
 海外へ派遣された自衛隊は、まるで糸の切れた凧のような存在である。シビリアンコントロールの届かないところで、自衛隊は経験を積み、確実に力を増している。
 うむむ、これって、なかなかに恐いことですよ……。
 戦車1200両、護衛艦60隻、戦闘機300機、定員24万人。日本の自衛隊は一見すると強そうに見えるが、実は張りぼての「張り子のトラ」である。
 ええーっ、なんで……かな。世界有数の実力装備を誇っているんじゃないの……?
 日本の防衛費は、4兆7000億円と高額だ。しかし、その装備は旧式化しつつある。なぜなら、防衛費の4割は、24万人の自衛隊員の人件費と糧食費であり、4割はこれまで買った高額な装備費のつけ払いに充てられる。残り2割の9000億円のうち、燃料費や研修費に充てるほか、最新の武器の購入に充てられるお金は限られてくる。だから、今や老朽化してしまっている。うむむ、そ、そうなんですか……。考えさせられます。
 イラクで自衛隊員が戦死したとき、制服組は政治家を操って国葬を計画していた。遺体を自衛隊が陸路または空路でイラクからクウェートまで搬送する。政府の代表として、首相でなくても官房長官がクウェートで遺体を迎える。そして、政府専用機で帰国する。葬儀は防衛省を開放し、一般国民が弔意を表せるように記帳所をつくる。何という手際の良さでしょうか……。そんな事態にならなくて幸いでした。
 湾岸戦争のとき、日本は一兆円を超える戦費を負担した。そのお金はほとんどアメリカに差し出された。クウェートに渡されたお金は、わずか6億円のみ。日本人は、アメリカのために1人あたり1人1万5000円を負担したことになる。
 今度のイラク戦争で自衛隊が行ったのはサマワだったが、サマワに決まるまで、場所も時期も二転三転した。現地情報が不足していたからである。
 当初は、1000人の旅団が派遣されるはずだった。しかし、首相官邸から「大げさになりすぎる」というクレームがついた。500人でいいという官邸案とのつな引きがあって、600人に落ち着いた。すると、部隊を守る警備隊は減らせないので、復興支援隊員を削るしかなく、600人のうち、わずか100人足らずしか復興支援活動に従事することができなかった。その内訳は施設隊50人、給水隊と医療隊が各20人だった。
 サマワの自衛隊は、13回も攻撃され、22発のロケット弾などの攻撃を受けた。そして、路上の仕掛け爆弾による襲撃も1回だけ受けている。まさにサマワは「危険地域」だった。
 戦争という破壊行為でこそ機能する武装集団に、町づくりを期待する方が筋違いだ。
イラクの土を踏んだ自衛隊員は5500人にのぼる。
 陸上自衛隊がイラクから引きあげたあとも、航空自衛隊は空輸活動を続けていた。いったい何を運んでいたのか……?その8割以上がアメリカ軍兵士を運んでいた。運んだ4万6500人のうち、3万人はアメリカ兵である。まさに、自衛隊はアメリカ軍の兵站活動を担っていたわけです。
 そして、海上自衛隊は、アラビア海で海上給油等の活動に従事した。日本の税金で買った水や石油を、アメリカやパキスタンの軍隊にタダで提供する活動である。タダだから、もちろん喜んでもらえた。なんと、なんと、日本はこんなことをしていたんですね。金持ち日本の大いなる愚行ですよ。信じられませんね。これでは福祉予算がバッサリ削られるはずです。
 防衛費の配分比率は陸海空ごとに1.5対1対1に固定化されている。陸1兆7000億円、海1兆1000億円、空1兆1000億円である。
 日本の自衛隊がアメリカの主導で、アメリカのための軍事組織になることは、日本人も国際社会も望んではいない。
 本当にそのとおりです。日本人は私をふくめて、自衛隊のこと、その能力、装備、予算を知らなさすぎると、痛感させられました。
 
(2009年2月刊。780円+税)

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