弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年5月11日

現職警官「裏金」内部告発

司法(警察)

著者 仙波 敏郎、 出版 講談社

 すごいですね。この3月に定年退職した私と同じ団塊世代の警察官が書いた本です。24歳で巡査部長となり、そのまま昇進もせずに42年間の警察官人生をまっとうしました。
 どうしてそうなったか?それは著者が警察内部で今も堂々と横行している「裏金」づくりへの加担を断ったことから、組織不適合者をさすマルトク(○の中に特)の烙印を押されたことによります。そして、2005年1月に現職警察官として初めて「裏金」を告発したことによります。いやあ、すごく勇気のいる行為でした。著者をしっかり支えた奥さん、そして、家族も偉いものです。著者は、次のように書いています。
 日本の片隅に、高卒で警察官になり、出世や私利私欲よりも当たり前の「正義」を当たり前に貫いた男が一人いたことを知ってほしい。特別な人間ではなく、権力もない人間でも、心に正義の火が灯っているかぎり出来ないことではない。そうすれば、この36年間の孤独な闘いにも一片の意味があったと信じることができる。
 なるほど、偉大な意味がありました。16年間で、署内移動もふくめて9回も異動させるほどの嫌がらせに耐えたのです。すごいです。
 警察の昇任試験は、受験者の7、8割には問題が漏れている。本当に実力だけでパスするのは、2、3割しかいない。
 捜査協力というのは、建て前は捜査協力者に支払われるお金であるが、実際にはほとんど外部へ支払われていはいない。警察官や警察職員が協力者になりすましてニセ領収書をつくり、その99%を裏金にしてきた。
 捜査本部を設置する費用として県警本部から600万円が署に送金されてきたとしたら、その半分の300万円は県警本部に裏金として戻される。
 裏金づくりの指揮官は、署では副署長であり、本部では各課の次長である。集金役には会計課長があたる。お金は、すべて現金で動き、銀行は使わない。決済を求める文書を差し出す「決済挟み(ばさみ)」にはさんで渡す。
 領収書の偽造は、会計監査のときにバレないように毎月一人3枚まで、と決まっていた。
 転勤していく署長には餞別として800万円もの大金を渡す。宇和島署では、年間1200万円ほどの裏金が作られていた。年度末に金庫をカラにしておかないとまずい。そして、署長は県警本部に戻って本部長へのお土産をとどける。その原資になった。
 すごい本です。読むと勇気が湧いてきます。
 本屋で買って読んだあと、著者からサイン入りの本を贈っていただきました。ありがとうございます。ぜひ、今後とも元気にがんばってください。
 
(2009年4月刊。1500円+税)

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